ヴァレンティノ(VALENTINO)の2024年秋冬メンズコレクション「ル シエル(LE CIEL)」が、2024年1月20日(土)、フランスのパリにて発表された。
「青」は、憧憬を象徴する色であるといえる。広々と青を湛える空や海は明晰に捉えることが叶わず、またラピスラズリに見るように、青色の鉱物はその希少さゆえに珍重されてきた。空に引き付けるのならば、たとえば19世紀フランスの詩人ステファヌ・マラルメにとって青く広がる空は、理想的であるものの──あるいは、であるがゆえに──決して手の届かぬ美を表すものにほかならなかった。
青をめぐる随想を広げたのは、今季のヴァレンティノが、「空」を意味する「ル シエル」と題されているからだ。空をめぐる特権的な色こそ、上述の「青」にほかならない。空は手で触れることはできないものの、衣服はしかし、常に身体とともにあるべきものだ。ヴァレンティノはだから、青が誘う理想を、メンズの衣服として具現化してゆく。
メンズウェアと理想と言ったとき、まず挙げられるべきはテーラリングだろう。豊かな色彩や装飾を抑制し、構築的なフォルムに仕立てたテーラードスーツは、理想的な身体を衣服において表すものであり続けてきたといえる。それならば今季のヴァレンティノは、いかなる理想的な身体を描くのか。伝統的に男性服に結び付けられてきた屈強さではなく、柔らかな流動性である。
つまりテーラードジャケットやロングコートは、ミニマルな佇まいを基調としつつも、ウェストをシェイプさせることなくボクシーなシルエットに。ハリとドレープ感のあるファブリックを採用し、ラペルの重心を低く設定することで、確固たるフォルムを固化するというよりは、歩みに合わせて揺らめく流動的な佇まいに仕上げられている。
装飾的な造形も、研ぎ澄まされ、抑制された男性服というイメージを新たにする。チェスターコートやPコートには、2024年春夏ウィメンズコレクションに見られた、透かし柄の模様を採用。ウェアのフォルム自体は構築的な仕立てに基づきつつも、クチュールの繊細さを取り入れた。また、コートなどにあしらったフリンジは、装飾性と躍動感を引き立てるものとなっている。
逆に、パーカーのようにリラクシングでカジュアルとされてきたウェアは、曲線的でありながらも明晰なフォルムを持つものへと昇華される。厚くハリのある素材を用いて仕上げたパーカーは、くたっと身体に馴染むスウェットとは相反し、テーラリングのように構築的なシルエットを帯びている。