トリー バーチ(TORY BURCH)の2025-26年秋冬コレクションが、アメリカ・ニューヨーク近代美術館(MoMA)にて発表された。
アメリカンスポーツウェアを再解釈し、クラシックを見直したという今季のトリー バーチ。女性が愛し、日常で手にするドレスから、端正なブレザー、カジュアルなニット、スポーティーなパンツまで、すべてを織り交ぜ、ブラッシュアップすることで新たなクラシックスタイルを模索している。
明確にスポーツを基盤とするルックは、形式に囚われない自由なマインドを感じられ、それが優雅さにも通じている。決して品格を損なうことはない。フェルトのように柔らかなジャージー素材のトップスとワイドパンツ、あるいはクォータージップフリースとボックスシルエットのチェスターコートの組み合わせがその好例だ。
モーターサイクルジャケットの無骨さと、ノーカラージャケットの上品さを兼ね備えたレザージャケットは、ウォレットやキーケースがパズルのように当てはめられており、バッグを持たずに颯爽と歩く快活な女性たちをサポートするかのよう。ある時はなめらかなストレッチ素材のランダムヘムスカートとともに、またある時はメンズライクなタックパンツとともに提案されている。
テック系アパレルを彷彿とさせるナイロン素材のコートは、温もりあるウールやベルベッドの中で異彩を放った。ウエストをアシンメトリーに絞り、なめらかな体のラインを際立たせている。
一方でよりクラシックなエッセンスを含んだジャケットは、袖裾が広がるベルスリーブだったり、透けるジャージー素材のレイヤードだったりと、マスキュリンを中和するギミックが仕掛けられている。ボックスジャケットとペンシル型のニットスカートは、いずれも刺繍によってツイードの質感を表現した精妙なファブリックによってラグジュアリーなムードをほのかに助長する。
セットアップからパンツまで度々登場したベルベッドは、柔らかなシワが入ったニュアンスのあるテクスチャーから、“お気に入りの服”に抱く優しさを感じられる。特にクラシックな小花柄をあしらったドレスは、誰かの記憶の中にあるような愛ある1着だ。一方で、エレガントなミモレ丈のドレスは斬新な発想が肝。ヌーディカラーとなめらかなビスコースの質感で知的な色っぽさを匂わせながら、袖裾のスリッドや捻れたウエスト構造によって大胆な解釈が加えられた。
スタイルを完成させるバッグとシューズのラインナップは、いずれもエレガントなものばかり。特に目立った、柔らかなレザーの「エレノア」ショルダーバッグは、ブラックやキャメルといったスタンダードカラーだけでなく、ポップなグリーンでも展開されており、今回はあえてクラッチバッグとして携えた。また、足元はクロスストラップまたはTストラップのパンプス、モンクストラップのレザーシューズ、ミニマルな乗馬ブーツなどをあわせている。
俯瞰してコレクションを見てみれば、さして取り繕った印象はないと感じられるほどすべてがナチュラルに映る。いわゆるファッションのジャンルに対する垣根などはもっぱら必要なく、自由であることが心地いい。今季の再解釈における思考の源は、元より女性の日常で当たり前にある「自分の好きなものを身につけるファッションが楽しい」という思いなのだろう。