グッチ(GUCCI)は2016年春夏コレクションを、イタリア・ミラノで発表した。会場はかつて多くの列車が行き交ったファリーニ貨物駅跡。そのホームに集った人々の前に現れたアレッサンドロ・ミケーレの手による“グッチ・トレイン"の2号車は、過去を引用しつつ新しい未来を描いたジェンダーレスな最新列車であった。
ファーストルックは、70〜80年代に一世を風靡した懐かしのGG柄のトレンチコートをはおったモデル。コートの襟は大きく、ガンパッチやポケットフラップ、ベルトが上質なスウェードでトリミングされている。下半身は鮮やかなグリーンのフレアパンツとゴールドのメッシュパンプス。首に無造作に垂らしたフラワー柄のスカーフとイエローレンズのサングラスが70年代のニュアンスをより強めている。
その後も性差の枠を完全に超越した“フラワー・チルドレン"が続く。深紅の花柄のシルクのセットアップジャージを着たモデルは、インナーにロングシャツをイン。その艶やかな柄はきわめて女性的であり、シャツはウエストを紐でしばれるようになっている。素肌に着たレースのシャツは、裾が大きくフレアしたベルボトムのジーンズに合わせている。花のアップリケが可愛らしいタイトなシャツにネイビーのスカートを穿いたルックは、もはやウィメンズと判断する人のほうが多いかもしれない。
オートクチュール的な贅沢な刺繍も目立ったモチーフのひとつ。70年代っぽい色気のあるシルエットのベージュのスーツには、花柄の刺繍を全面に施しているし、カギ編みのニットには蝶と碇マークの刺繍が施されている。スタッズとともに花や鳥の刺繍があしらわれた淡い紫のレザージャケットは、今回のコレクションを象徴するスペシャルなピースと言えるだろう。
ボタン位置の高いグリーンのスーツは、当然のようにフレアシルエットで、上着の下のほうには長年たんすにしまわれていたような折りシワがついている。あえておじいちゃんのワードローブに眠っていたスーツを引っ張りだしたような演出なのだろう。ナードな雰囲気を作るのに一役買っているベレー帽や大きめの眼鏡は、前シーズンに引き続き多用している。
こんな女性的を着こなすのは難しい……と躊躇する人も多いかもしれない。しかし、アイテムを単品で見ればトレンチコートをはじめ男らしいアイテムも多いし、前任のフリーダ・ジャンニーニともトム・フォードとも違う、往年のグッチファンが歓喜するようなフレーバーがところどころに隠れている。GG柄のバッグやベルトはファンが待ち望んでいたものだろうし、スウェードのコートに胸元には、グッチを象徴するウェブのストライプが鎮座している(よく見ると配色がグリーン・レッド・グリーンではなく、グリーン・レッド・ネイビーになっている!)。グッチの歴史に敬意を表しつつ新しい男性像を紡ぐことに果敢にチャレンジしているのだ。
著名なファッションジャーナリストのティム・ブランクスは、今回のジェンダーレスの極みのグッチを「NEW PUNK」と評した。パンクとは似ても似つかないスタイルだが、その“姿勢"がパンク精神に満ちあふれているということなのだろう。最後に登場したミケーレの出で立ちは、無造作に伸びた長髪&ヒゲに、白いTシャツと色落ちしたブルーデニム。この70年代からタイムスリップしてきたようなノームコアな男が描く世界観は、さよう従来の男性服のルールの範疇を大幅に広げる新しさを秘めている。
TEXT by Kaijiro Masuda(FASHION JOURNALIST)