まとふ(matohu)が東京・表参道ヒルズで2016年春夏コレクションを発表した。今シーズンのテーマは、松尾芭蕉が晩年に唱えた俳諧の境地「かろみ(軽み)」。ありふれた光景を日常の言葉で表現しながら、自然や人生の深い味わいを描き出すことを意味する。デザイナーの堀畑裕之と関口真希子は、それは服を作るうえでも同じく重要だという。
一筆書きのように流れるショーは、気難しさを感じさせない。さらりと風を“まとふ”ジャケットやワンピース、パンツにスカート。どのアイテムも軽い素材を用いた、自然と生活に馴染むものばかりであった。
しかし、目を寄せると新たな発見が後を絶たない。例えば、彼らがこだわったというテキスタイル。ギンガムチェックには細やかな波線を隠したり、格子柄は素材の違いで存在感に強弱をつけたり、モザイク柄はカラーバリエーションで遊んでみたり。あらゆる模様と素材、色合いを登場させて、一筋縄ではいかないスタイルに仕上げていた。
さらに、ディテールやアクセサリーへの配慮も、忘れてはならないポイント。ジャケットの裏地には表地とコントラストを効かせたカラーや全く違う柄を施していた。さらに、アクセサリーは、プリントと同じかたちのものを用い、薄いアクリル素材で軽量感を抱かせた。まるで、風に揺れることを計算したかと疑う仕込みようだ。
「服とは自然と着る人に寄り添うもの。」そう語ったデザイナーの2人。いろんな要素を組み合わせる究極に手の込んだ日常の表現は、芭蕉が一瞬の閃きや感動を再現するために、何度も自分の句に手を入れている姿勢と重なって見えた。また、彼らはコレクションの裏テーマを「大人ポップ」と銘打った。それは、ショー終盤、今まで差し色にしていたビビットなカラーを主役に持ってきたルックに、少し大胆に表したのかもしれない。