2012年3月21日、アンリアレイジ(ANREALAGE)が2012-13年秋冬コレクションを発表した。どこからか聞こえる足音がだんだん大きくなり、照明が点滅を始めた。1秒前の周りの景色が残像として残っていく。実体験より1秒遅れて現れる景色。その中に登場したモデルの姿もスローモーションのように視界に刻まれていく。よく見ると、彼女達の服の袖が不思議に大きい。歩くのに合わせて腕を振るその軌跡をそのまま形にしたようだ。このコレクションのテーマは「TIME」、時間をかたちにするということ。
前回、"境界線"をテーマにコレクションを発表した際、この境界線というものを時間軸の中で捉えることができないだろうか、と考えたのが起点となった。残像やブレた写真、ぼけた映像は、ひとつのモノが動いた軌跡がかたちになって現れたもの。お店に並ぶ洋服は止まった形でしか存在していないが、そこに時間の概念を与えることで、そのかたちの動きをそのままひきずったような、新しい服の"かたち"が見えてきた。実際の体の動きからデータをとって原型をつくり、それに合わせて作られた新しい服のかたち。
ショーではフォルムを強調するため土台を入れて固定されているが、この土台なしで着用すると思わぬドレープを持った服が現れてくるという。中学生が履くようなローファーも、歩く時の軌跡を残したフォルムに再構築することで、モードの世界のハイヒールになるのだから面白い。
バリエーション豊かな柄にも意味がある。本来動くモノである蝶や星は、洋服の上ではプリントやモチーフ飾りなど動かないものとして存在する。そんな動かない柄達に時間の概念を与えてできたのが、動きの記憶を留めた柄だった。さらに、視覚的にスピードを感じられるチェックやドット柄を使ったのは、「移り変わりの早いファッションでは速さが正義とされているが、ひきずることにも正義があると思う」というメッセージが込められているから。
「ブレ、ゆらぎ、不安定さは言葉としてはマイナスのイメージがつきまとう。だが、その中でも価値があるということに気付かせたい」、とデザイナーの森永は語る。フィナーレに近づくと、何枚ものパーツを少しずつずらしながらつなげたデザインのアイテムが種明かしのように登場させた。過去、現在、未来、時の流れを身に纏ったコレクションは、残像の中に消えて行った。