ディオール(Dior)は、2019年リゾートコレクションをフランス・パリのシャンティイで発表した。
マリア・グラツィア・キウリが、今季の物語の主役として選んだのは、メキシコの伝統的な女性騎士「エスカラムサ」だ。チャレリアと呼ばれる馬術競技に、男性と同じく果敢に挑む彼女たちは、刺繍で満たされたスカート、大きなハット、フラワーモチーフが踊るフェミニンなコスチュームで鍛え抜かれた強靭な肉体を包んでいる。
太いベルトやウエストラインを強調するジャケットと、軽快に揺れるチュールやレースのスカートによって生まれる、まるでニュールックのようなコントラストの強いシルエットをベースに、幻想的な世界が広がっていく。特に、マリア・グラツィア・キウリが目を付けたのが、フランスの伝統的なテキスタイル、トワル ド ジュイだ。
田園風景をはじめとする日常の美しさを投影するトワル ド ジュイを、今季はより自由な発想でモダンに解釈している。うさぎや馬などの優しい動物たちが草原を走るわけではなく、当時の牧歌的な要素は少ない。曲がりくねって朽ちた木々、そしてライオン、トラ、蛇といった強い動物が登場する風景は、身に着ける女性の内側を示すかのように、ワイルドな部分が垣間見える。
時には「バー」ジャケットやロマンティックなレースブラウスの下で、伸びやかに重なり合うパウダーカラーのチュールに、またある時には、対照的なサファリジャケットに落とし込まれる。形は違えど古典的な美しさを今に蘇らせるという点で共通していて、あくまで毅然とした佇まいで居続ける。そこに加わる、揺らめく繊細なレースと踊るような草花の刺繍は、強さとは対比的にある、女性の“愛”や“優しさ”の表現にも思える。
今季、女性像を具現化するうえで、イメージしたもう一人の人物がいる。ギリシア神話に登場するアマゾネスだ。女性のみで構成された狩猟部族として知られ、彼女たちもまたジェンダーに捉われない存在だったのだ。キュロットスカートや、1948年春夏オートクチュールコレクションに発表した「Drags」を彷彿されるスカート、メンズシャツも登場していた。
女性騎士の強さを軸に、マリア・グラツィア・キウリがのせた自由で幻想的な物語が紡がれたランウェイ。時代を越えて、彼女が現代によみがえらせたスタイルは、きっと今の女性たちに通ずるものばかりなのではないか。