ジル サンダー(JIL SANDER)の2019年秋冬コレクションは、伝統という概念と、それに真っ向から立ち向かう未来への姿勢の2面性を持ち合わせた。そして、その試みが、ルーシー&ルーク・メイヤーが目指す、“誰もが袖を通すだけで洗練された装いを叶えるクリーンなワードローブ”に大きな力を与えている。
まず、ひとつの要素である厳格なテーラリングは、ミニマルなルックの連続から見て取れる。基本となるのはフォーマル、ミリタリー、ワークといったメンズウェアの中でも歴史の深いエッセンスだ。シルエットはやや細身で、特にジャケットやコートは一切の無駄を省いた印象を受ける。ウールやツイードなどの重厚なテキスタイルも歴史に倣うものだろう。
これらに真っ向から立ち向かう先駆的な要素は、現代のリラクシングかつカジュアル思考の装い。特にスタイリングの面白さが目立った。
3ピースは、ボトムスにジョガータイプの緩いパンツをミックスし、重厚感あるツイードコートは片腕だけ通してラフなコーディネートに。透けた極薄のニットはシャツとのレイヤードを思い切り楽しむためには欠かせず、さらにそのシャツもまたワンピースほど長いレングスで、先駆的装いの完成へと道いている。“モッズコートのセットアップ”にトートバッグをクラッチスタイルで持つ斬新なルックも今季らしさの表れだ。
足元には、ソリッドで力強いスニーカーを合わせ、バッグは、まるで幾何学的なグラフィックを切り取ったかのようなフォルムで提案することで、実用的かつ都会的な感性を滲ませている。