2012年9月24日、ファクトタム(FACTOTUM)が2013年春夏コレクションを発表した。テーマは、「Working and Thinking」。『波止場日記』の著者であるアメリカの哲学者、エリック・ホッファー(ERIC HOFFER)が沖仲仕だった頃に1日の大半を過ごした波止場と図書館からインスパイアされた。
コレクションのスタイルを"Intelligent workers"と名付け、昼間は海での仕事、あとの余暇のほとんどは読書に費やしたといわれるホッファーのライフスタイルそのものがデザインに反映されている。カラーパレットは、ネイビーや白に、赤やくすんだ黄色をアクセントに取り入れた。これらの色は、美しい港町サンフランシスコの開放的で色鮮やかな情景や50年代に流行った対極的な色合わせから思いついたのだという。
図書館をイメージした前半には、エレガントで品のよさが際立つルックが登場。ジャケットスタイルやセットアップといったアイテムが目立ち、ストールも前で結び、裾をきっちりとジャケットに入れた巻き方が印象的だ。トレンチコートの袖をたくし上げたり、半端な丈のパンツに足元はカラフルなソックスを持ってきたりと、絶妙な抜け感は忘れないスタイリング。
後半は一転して波止場が舞台。ドローストリングスがポイントのワークパンツや、綿入りのベストにアクティブなウィンドブレーカー、漁師の黒いビニル製ブーツをカットしたかのようなショートブーツなど。青と白のボーダーニットは引いては打ち寄せる波を想像させる。
自らが訪れた国や街で得たイメージをコレクションに反映する事で知られる、デザイナーの有動。今季も実際にサンフランシスコの街でコレクションのアイディアソースを見つけてきた。ネイビーのジャケットやパンツの細かな模様は、よく見るとホッファーに縁のある帽子やメガネのプリント。また、白い服に施されたブルーのグラデーションが美しい、ステンシルを使ったスプレープリントは、ホッファーの本の書判を模ったものだ。これらは、全て現地の国立図書館で見たホッファーのアーカイブからヒントを得た。
「今回のショーでのキーワードは"リアルクローズ"。発表した服たちは、ほとんどが実際に商品化されます。街中に溶け込む服を作りました」(有働)。それが一番良い意味で無駄が無く、バランスが取れていると彼は語る。
ホッファーの自著に「読書と美味しいパンと散歩さえあれば自分は幸せだ」という名言がある。社会の底辺に身を置き、多くを求めない生き方を貫いた彼らしい言葉だ。その精神は、有働が服と向き合う姿勢にまで影響を与えたようだ。