そもそものファッションへの目覚めは何だったのですか?
私の母が仕立屋を営んでいたことがきっかけです。そのため幼いころからミシンの音を聞いて育ってきました。田舎町で男の子がファッションを仕事にするのはなかなか理解を得難いことで、一度建築家になろうとも思ったんですよ。
建築家ではなく、最終的にはやはりファッションへの道を選んだのですね。
はい、それにコンピューターを使ってのデジタルな設計作業に嫌気が差してしまったんです。だから結局フランスへファッション留学をすることに落ち着きました。その後、残念ながらすぐにはデザインに携わることは叶わず、ブティックで働くこととなりました。しかし、こうした遠回りも今思えば素晴らしいトレーニングだったのだと思えます。お客さんやバイヤーからたくさんのことを学びますし、そうした経験が今に生かされている事は確かです。今でも極力店頭に立ってお客さんからのフィードバックを聞くようにしています。
お客さんからの反応が実際にデザインに反映されることもありますか?
ええ。彼らのリアクションはとても素直で信頼できるものですからね。お客さんは最高の先生ですよ。私がこの仕事で一番好きなのは、そうしていろいろな人たちと出会えることです。お客さんとの距離が近いブランドでありたいと思っています。
ご自分でどのようなパーソナリティーの持ち主だと思われますか。そしてそれはデザインに表れることはありますか。
やはり多少表れてしましますね。私は、均整がとれたものが好きであると同時にアンバランスなものも好きで、少し不安定というか、おかしな性格なのかもしれません。それが影響して、テキスタイルや色のコントラストがはっきりとしたデザインが生まれます。
クリエイションの考えが行き詰まってしまうことはありますか?
正直に言えば、そういう時も確かにあります。ですが、アイディアが煮詰まってしまうのは相当疲れている時なので、しばらく休憩を取った後スタジオから家までの道を歩いて帰る間に解決してしまうことがほとんどです。だから本当に短い間しか思い悩まないですね。恐らくこれは、ブランドにも自分自身にも常に大きな期待を持っているからでしょう。
これまでに様々なクリエイター達とのコラボレーションを試みてきましたよね。
ええ。自分の足りない部分を埋めることができるのもコラボレーションの良いところだと考えます。例えば、私はプリントのデザインを思いつくのは得意なのですが、それを実際に生地に起こす技術はありません。だから各分野のプロフェッショナル達の協力を得て、コレクションをより豊かにしていきます。単純に彼らが持ってくる目新しいアイディアや興味深い提案を聞くのが楽しいというのもあります。コラボレーションをした人は皆魅力的なので、その人自身が私のミューズになることもあります。
どなたか次にコラボレーションしたいと考えている人は?
そうですね、現在もいろんなプロジェクトが動いています。2013年のPre AWコレクション以降のことはまだ具体的には言えないのですが。でも、いつか日本人のクリエイターとのコラボレーションも実現してみたいです。
2006年のブランド設立当初より、アンティポディムはクリエイターとのコラボレーションを定期的に続けてきた。最新コレクションでは整形外科医と建築家とのコラボレーションが実現し、手術のマークを模したプリントや、構築的なヘアスタイルを生み出すヘアアクセサリーの制作に至った。そして、2013年のPre AWコレクションでは、ニューヨーク在住のクレイグ(Craig)とロンドン在住のカール(Karl)によるアート ユニット、クレイグ&カール(Craig&Karl)のカールとのコラボレーションが決まっているという。クレイグ&カールはこれまでにパリ・ルーヴルをはじめとした美術館での作品展示や、グーグルやヴォーグ誌をクライアントとして様々なプロダクトデザインを手掛けてきた。彼らのポップでカラフルなアート作品は、アンティポディウムのデザインと通ずる所があるため、コラボレーションの良きパートナーになるに違いない。
最後に、日本のお客さんに向けて何か一言いただけますか。
コレクションを楽しんでいただければ嬉しいです。日本の方からの反応をとても楽しみにしているので、いつかパーティーを開いて皆さんと直接お会いできる機会を設けたいとも思っています。
フィンチは、ジョークを交えながら気さくに質問に答え、席を立って自ら服を一つ一つ説明をしてくれるなど、インタビューは彼の穏やかな人柄が存分に垣間見えるものだった。そんなフィンチのユーモラスでフレンドリーな性格は、アンティポディウムのウィットに富んだデザインに大きく反映されているようだ。また、仕事仲間や顧客を大切にし、積極的なコラボレーションによって人と関わることを好む姿勢は、着やすさを重視した着る人目線の服作りに表れている。
インタビュー中、「デザインは心からするものでしょう?」という言葉が自然とフィンチの口をついた場面が一際印象的だった。彼は、温度のあるクリエイションを生み出すことのできるデザイナーなのだ。
アンティポディウム(ANT!PODiUM)の2013年春夏コレクションは下記でチェック。
→「アンティポディウム 2013年春夏コレクション - 完璧な美への追求で生まれた官能的なサイボーグ」
Interview and Text by Reiko Aoyama