アナ スイ(ANNA SUI)の2020年秋冬コレクションが発表された。
今季のテーマは、ゴシック(gothic)カルチャーとヴァンパイア(vampire)を組み合わせた造語“ゴシック・ヴァンプ(GOTHIC VAMP)”。数々のホラー映画を着想源に、ゴシックのムード匂い立つ、妖艶なる夜の世界を表現した。
ヴァンパイアは闇夜でも目が利くようだ。夜の底に咲く花々は暗闇に沈まず、色とりどりの織物を織りなしている。黒を基調とはしつつも、パープルやレッド、グリーンといった鮮やかな色彩が様式化された花々を染め、熟れすぎた果実のように危うい魅惑を放つ。そして随所に配したレース模様、袖や裾のフリルもまた、ゴシックの気分を高めている。
『モデル連続殺人!』をはじめ、着想源となった映画のポスターの色彩は、“ポピー”柄へと再解釈。ウエストを絞ったバルーンスリーブのドレスや、ファックスファーのロングコートにあしらった。Aラインを描くコートの下には、シースルー地にポピーの花を散りばめた軽やかなドレスを合わせ、隠しつつも見せる=魅せる、艶やかなスタイルにまとめている。散るのが早く、その真紅が血を思わせるために不吉な花とされるポピーは、吸血鬼の妖艶な世界を飾るに似つかわしい。
あるいは、ハイネックのドレスや、紐ボタンをあしらったジャケットには、リバティ(Leberty)プリントの新柄「ボタニスツ・ダイアリー(Botanist’s Diary)」を。足元に合わせたシューズはテバ(Teva)とコラボレートした1足であり、ここにまでリバティプリントの花を咲かせている。
花とは対照的に、人工素材を使った衣服はぬらりと底光りするよう。レースとビニール素材を組み合わせたドレスは、ウエストを高い位置で絞って身体に沿ったフォルムを作るも、裾にはギャザーを寄せて表情をつけた。カラーはブラックに統一し、妖しげな光沢を放つビニール部分と、肌を透かして見せるレースの織りなすコントラストを引き立てている。また、ケープは緩やかにひだをなし、さながらコウモリの羽をも思わせる。
そして終盤に現れるイブニングでは、ファーをあしらいラグジュアリーなムードを漂わせるマキシコート、ないしはきらめく植物のモチーフをのせたペニョワール風アウターを纏って。首元のチョーカーには、エリクソン ビーモン(ERICKSON BEAMON)の宝石が光る。暗いトーンのグリーンやパープル、ブラックのテキスタイルにはラメ糸も織り込み、闇夜の眩くばかりの魅惑を表現しているようである。