フランス生まれの「ゴヤール(GOYARD)」は、世界的なラグジュアリーブランドでありながら、パリ本店を含め、世界で40店舗弱しか店舗を持たない“異例”のビッグメゾンだ。長い長い歴史の中で、今日まで人々を魅了し続けるゴヤールの華麗なる軌跡、そしてブランドを代表する高級トートバッグ「サンルイ」の魅力を、改めてフィーチャーする。
まずは遡ること18世紀からスタートした、ゴヤールの知られざる歴史からプレイバック。
ゴヤールの物語は、ピエール・フランソワ・マルタンが1792年フランスで創業した「メゾン・マルタン」から始まる。“トランクメーカー”の黄金時代が訪れる前のこの時代、旅行用の木製の箱や梱包用品専門メーカーとして「メゾン・マルタン」を立ち上げた彼は、単に入れ物という機能だけでなく、“いかに美しく見せるか”という高いデザイン性にも注力。その努力が功を成し、上流階級の人々の間でもメゾンの評判がたちまち広まることとなる。
その後、後継ぎのいなかったマルタンは、従業員のひとりであったルイ・アンリ・モレルに会社を継承。モレルの死後は、その弟子のひとりであったフランソワ・ゴヤールがバトンを引き継いだことで、今日へと続く高級トランクメーカー「メゾン・ゴヤール」の歴史の1ページが幕を開けるのだ。
今や世界で確固たる地位を築いたゴヤールだが、そのきっかけを作ったのは、父・フランソワからメゾンを受け継いだエドモン・ゴヤールが深く関係している。伝統の担い手として、経営者として、エドモンの代で成し遂げた偉業は下記の通りだ。
ゴヤールのシグネチャーである“Y字の杉綾模様”のキャンバス地を世に広めたのは、実はエドモンの手腕。薪を運ぶ運送業の河川同業組合のメンバーだった<ゴヤール家の歴史>にオマージュを捧げ、イカダで薪を運ぶ様子に着想した杉綾模様を生み出したのだ。
レザーのような風合いを持ちながら、耐水性を持つ「ゴヤールディン」は、コットン×麻で織られたキャンバス地に、天然塗料のコーティングで仕上げているのが特徴。また杉綾模様のパターンは、下地をぬった後、4回地道な手作業で色を重ねることで、独特の模様が生まれるという。この「ゴヤールディン」キャンバスの制作過程の全貌は現在でも一般に明らかにされておらず、“門外不出のメゾンのレシピ”として、今なお大切に引き継がれている。
「メゾン・マルタン」の時代から受け継いだゴヤールの本店。そこでは、エドモンの戦略により顧客を大幅に絞ることで、ブランド力の向上へと繋げた。その後ビジネスの拡大を図ったエドモンは、フランス国内の支店のみならず、ロンドンに現在もブティックがあるメイフェアのマウント通りと、ニューヨークに販売代理店を出店し、海外進出も果たす。
優れたビジネスセンスの持ち主であったエドモン・ゴヤールは、従来のトランクだけでなく、当時はまだまだ珍しかったペット用品やカー用品の新ラインを立ち上げることで、さらなる注目を獲得した。(ゴヤールのペット用品やカー用品は、今日でも人気を集めている。)また様々な世界万博に参加することで、広告活動にも注力したのもこの時期だ。
こうしたエドモンによる“改革”を経て、メゾン・ゴヤールは、芸術家、国の指導者、王室関係者をはじめとする、華々しい顧客を獲得する。そのクライアントリストに名を連ねるのは、パブロ・ピカソやココ・シャネル、クリストバル・バレンシアガなど、その時代を築き上げた“時の人”ばかりだ。そして“カルテ”のように顧客リストを徹底管理していることも特徴で、顧客の知名度に関係なく、生涯に及ぶ年月を大切に保管しているという。