ルール ロジェット(leur logette)の2021-2022年秋冬コレクションは、“もう一つの楽園”を意味する「VISIONS OF THE IDEAL」がテーマ。フランスの画家 アンリ・マティスの作品が持つ色彩の美しさや、美意識、そして思想に共感して作り上げたコレクションだ。
アンリ・マティスは、19世紀から20世紀のフランスで活躍した芸術家。戦争が度重なり、社会状況が混乱していた当時のフランスで、マティスは“ここではないどこかへ”という憧れを作品に投じ、絵画の中に「楽園」を創り上げたという。
今季、デザイナー井本雅子が行ったのは、このマティスのプロセスと同じだ。喧騒と不安が入り乱れる現代で、心穏やかに過ごせる“楽園”をつくる。絵画と服作り、そのアプローチは違えど、紡ぎたいメッセージは同じというわけだ。
象徴的なのは「マティス フラワー プリント」と名付けられたシリーズ。ルール ロジェットが得意とするフラワー プリントに、マティスのエッセンスを落とし込み、幻想的で美しい世界を作った。鮮やかなイエローやレッドを幾重にも重ねて、まるで絵画のように花々を描く。黒のキャンバスを仕込むことでその色彩の美しさは際立ち、ヴィンテージ風の趣をも放っている。
素材には、高密度なブロード地を起用することで、スカートはキレイなAラインを描き、ワンピースはふわりと膨らんだアーム、流れるようなスカート部分の立体感が際立ち、エレガントな姿を見せている。アクセントに効かせたプリーツ部分は、2段にかさねて特殊プリーツ加工を施しているため“半永久的”に綺麗な状態をキープするというから芸が細かい。
“楽園”―そう耳にして思い浮かべるのは人それぞれだろうが、ひとつにタイムスリップして“過去の時間を楽しむ”という方法があるかもしれない。今季のルール ロジェットのコレクションには、纏うだけで過去にワープできるような、クラシックなデザインが多く存在する。
例えば、付け衿のように大きな衿のオーガニックコットンブラウスや、ケープのようなシルエットの千鳥格子柄のコート、動くたびに揺れ動く小花柄のプリーツスカートなど。袖を通してみると、不思議と背筋がすっと伸びて、本で読んだり、映画で見たりした“過去の時間”を生きているような特別な気分を味わうことができる。
また、洋服を着ている方が心地よい、そんな肌感覚も一つの“楽園”といえるだろう。テディベアで有名なドイツ・シュタイフ(Steiff)社のファーを使ったカーディガンや、ニット編みでパイル地を表現したモヘアナイロンのベストやカーディガンはこの好例。肌に触れている時間が安らぎになり、心穏やかな気持ちにさせてくれる。