ヨウヘイ オオノ(YOHEI OHNO)の2023年春夏コレクションが、2022年9月1日(木)、東京・上野の国立科学博物館にて発表された。
「ここでは空間が時間に変わるのだ」──空間的・時間的に多彩に広がる服飾のモチーフを、決して系統立てることなく取り入れて現代のカジュアルなワードローブへと変換する今季のヨウヘイ オオノに、この言葉が似つかわしいように思える。
デザイン性に富んだカジュアルウェアを基調とするコレクションは、随所に服飾史上のモチーフを散りばめている。キャミソールトップスやドレープを渡したノーカラージャケットの下にはウエストバッグを、サイドに、あるいはバックに忍ばせることで、19世紀のヨーロッパで流行したクリノリンやバッスルスタイルのドレスを彷彿とさせるシルエットに。短長ともにパンツには、十字架を彷彿とさせる星形のホールを取り入れた。
そうした引用が自然と溶け込んでいるのは、あくまで現代のカジュアルウェアや素材を基調としているからだ。バッスル風のシルエットを組み立てるトップスは、バックをトレーンのように長く設定し、フロントにはスパンコールを敷き詰めて。軽快に波打つスカートには、光沢感のある素材にヴィヴィッドな色味と大胆な柄をのせて。キャミソールトップスやワンピースの裾には、弾力に富んだシアー素材を用いたホーンをあしらい、立体的なデザインを構築している。
素材の切り替えも随所に用いられている。ロング丈のキャミソールワンピースには、光沢のある素材、シアー素材、ギャザーを寄せた軽やかな素材を段々に重ねる。スクエアネックのドレスは、パフスリーブやギャザーによって甘い要素を取り入れながらも、ビニールのように光沢を帯びた素材とシアー素材を組み合わせてブラックでまとめ、フェティシズムを匂わせる強さを漂わせている。
ちなみに冒頭に引いた「ここでは空間が時間に変わるのだ」とは、ロマン派の作曲家リヒャルト・ヴァーグナーの《パルジファル》第1幕において、場面転換に際して歌われる言葉だ。本ショーの舞台となったのは、古代の生物の骨格標本が多数展示された1室であり、ライティングに合わせて骨格の影が踊り乱れる。展示室に立ちながら遠くに来たような感覚へと誘うこの空間が、コレクションと呼応するかのように思われた。