ディオール オム(DIOR HOMME)が2014年1月18日、2014-15年ウィンターコレクションをフランス・パリで発表した。
最初のモデルが姿を現したとき、「んっ?」と思ったのは私だけではないだろう。ストライプのスリーピースは、ジャケットはベーシックな2つボタンでパンツは細すぎない美脚シルエット。丸の内や青山で働く都会のビジネスマンはもちろん、公務員が着ていても違和感のないものだ。しかし、良く目を凝らして見ると、胸ポケットに挿したチーフ代わりのスズランの花は、実は刺繍によるもの。
しばらくスーツの行進が続くのだが、少しずつ遊びの度合いがエスカレートしていくのが面白い。2ルック目のストライプのスーツには、ミスマッチに思われるドット柄のプレーントゥをスタイリング。3ルック目のスーツは、身頃と袖のストライプの幅を変えることで、バイカラー風に見せている。さらに、生地の耳を中央に配置したモッズっぽい3つボタンのスーツ、ビートルズを連想させる4つボタンのドット柄のスーツ……とモードの階段を1歩ずつ上がって行く。
その後はスーツの上にN-3Bやモッズコートを羽織ったルックもあれば、ジャケットの上にポケットがたくさんついたベストを重ねたチャレンジングなルックが登場。ピッティ・ウォモでもトレンドに浮上した「テーラード+ミリタリー」の提案だが、どこか目新しく洗練されて見えるのは編集力に長けたクリス・ヴァン・アッシュの手腕だろう。
スーツの後は、やや唐突に“シティーボーイ”的なトラッドに切り替わる。たっぷりした身幅のチェスターコート、キャメルカラーのシンプルなレザーコートに合わせたのは、ユーズド感のあるロールアップデニムとスニーカー。ストライプシャツと水玉のネクタイの上にデニムジャケットとコートを重ねた80’s的なルックもある。ラストはもう一度テーラードにゲットバック。子供がいたずら書きしたような手書き風のイラストを、サヴィルロウを連想させる素晴らしい仕立てのスーツ、コートの上に描いている。
最後に種明かしをしてみよう。今回のコレクションはムッシュ・ディオールが構築したディオールのアーカイブをクリス・ヴァン・アッシュが再構築したものなのだ。ムッシュが愛し、コレクションで象徴的に使われたスズランの花は、可憐な印象とは裏腹に有毒な成分を含んでいる。今回のディオール オム、パッと見では普通に見えたとしても、きっとどこかに魅惑的な毒が潜んでいるに違いない。
Text by Kaijiro Masuda(FASHION JOURNALIST)