デザイナー トム・ブラウンはコレクションを通して何かメッセージを伝えることを良しとしないデザイナーだと勝手に思っていた。だがトム ブラウン ニューヨーク(THOM BROWNE. NEW YORK) 2014-15年秋冬メンズコレクションのトムは違った。ランウェイの中央には、まるで寂れた動物園のようなジオラマ(動物や植物はグレートーンのテキスタイルで作られている)が設営されている。木は枯れていて、動物は冷凍保存されているかのようにその場を動かない。コレクションを通して何かを伝えようとしているのではないか、と会場の誰もが思っただろう。
ショーは2つのパートで構成されている。最初はトム ブラウンらしいスーツを中心としたコレクション。ジャケットのシルエットは定番のコンパクトなサイズ感の2つボタンだが、縫い合わせる部分を切りっぱなしにしてフリンジっぽく仕上げている。ボトムのバリエーションは豊富で、いつもよりやや太めのトラウザー、膝上丈のショートパンツ、エプロンの前後を逆にしたようなスカートなど。縫い目の仕上げはジャケットと同様で、裾は無造作にロールアップしたようなダブル仕上げ(カフの長さは長短両方あり)。ロングパンツの丈はいつもの8部丈だが、ソックスを履くことで、くるぶしを見せていないのが新鮮に映る。
素材は厚手のウールが主体で、柄はグレンチェックのオーバープレイド、ガンクラブチェック、ペンシルストライプ、ウィンドウペンなど。色はグレーを中心に、ネイビー、ブラウンを織り交ぜている。スーツと同素材の象や兎、鹿、熊、カエルなどのヘッドピースは素晴らしい出来映えだが、どこか悲しげな表情をしているのが気になる。この前半のコレクションは、トムのグレーのスーツが好きな人なら誰もが歓喜するであろう仕上がりで、多くの“買い足し需要"が期待できそうだ。
後半は一転して斬新なコレクション構成に変わる。葉っぱのモチーフを刺繍、ジャカード、プリントで表現した超絶的に凝ったアイテムは、全身を風船で膨らませたようなはち切れんばかりの風体。顔にもタトゥーのように葉のモチーフが描かれており、その様はまるで枯れ葉の亡霊のようだ。現在進行形で自然を壊し続けている人間の肥大した姿を揶揄しているようにも見える。
中央に設置された木には1枚たりとも葉が付いていない。草食動物にとって葉は生命の源。その葉を人間が汚染し続けていることにトムは警笛を鳴らしているのだろうか……。トムの真意は分からないが、「洋服としての実用性」と「ショーのエンターテインメント性」の両者のバランスに優れた素晴らしいショーだったことは間違いない。
Text by Kaijiro Masuda(FASHION JOURNALIST)