キコ・コスタディノフ(KIKO KOSTADINOV)の2025年秋冬メンズコレクションが、2025年1月25日(土)、フランスのパリにて発表された。
ミニマルな佇まいとは対極的な、リラクシングなシルエットと豊かな質感。野生的な感覚と有機的な組み合わせを試みたという今季のキコ・コスタディノフが着想源としたのが、ハンガリーの映画監督タル・ベーラ(Tarr Béla)であった。その作品では、ある人物を取り巻く空間や物体、天候までもが、個々の存在、そして身に纏う衣服に影響を及ぼすのだ。
そのシルエットは、あたかも周囲の空間と作用しあうようにして、ルーズに仕上げられている。スタンドカラーコートといったロングコートは、オーバーサイズに。フード付きのブルゾンはラグランスリーブで柔らかなショルダーラインを描きだし、パンツにも量感を持たせている。また、テーラードジャケットやジップアップブルゾンなどにはレイヤード構造を採用し、しばしば異なる表情を持つファブリックを重ねることで、外側から内側へと、染み入るような環境の作用をほのめかすかのようだ。
キコ・コスタディノフを特徴付ける精緻な構築性も、ここでは有機的な造形を織りなすことに寄与している。スタンドカラーコートやブルゾンのバックには、大きくドレープを織りなす、曲線的なヨークを施して。ジップアップブルゾン、ダブル仕様のトップス、襟をずらしたコート、ボリュームのあるパンツはアシンメトリックに仕上げるほか、ボーダートップスやスタンドカラーコートに見られるように、ファブリックの複雑な切り替えも取り入れている。
一方、質感に富むファブリックには、ハンガリーやブルガリアの伝統的な手仕事や素材に着想を得ている。伝統的な巻きスカートやブランケットに用いられてきたチェック柄は、重厚なコットンのジャカードで表現。ブルガリア軍のカモフラージュ柄は、起毛感あるブラックのウールへとアレンジし、上層を削ることで、下層の光沢感ある素材を浮かびあがらせる。このように、過去のものを再活用し、日常の身振りに馴染んでゆくなか、時間とともに変容してゆく感覚を意識したという。
周囲の環境から絶えず作用を受け、曖昧に揺らめく様は、ロシアのアーティスト、コン・トルブコヴィチ(Kon Trubkovich)の絵画からも影響を受けているという。曖昧で孤立した人物のイメージを描きだすトルブコヴィチの作品には、曖昧で、質感に富んだ存在の震えが表出されている。そうした震えを反映するかのようにして、キコ・コスタディノフは、ブラックやブラウン、グレーといった落ち着いた色味をベースに鮮やかなオレンジ、イエロー、セルリアンブルーなどを散りばめることで、存在の確かさを崩しているようだ。