ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)は、2023年秋冬メンズコレクションを発表した。
今季のルイ・ヴィトンは、人間として生まれてから育っていくまでの過程にある普遍的な体験や、子供から大人へと成長する通過儀礼に光を当てる。コレクションが披露された会場には、少年時代から思春期、成人期へと段階を踏んでいく複数の部屋が登場。まるで1つの家のように作られた空間をモデル達が歩いていく様子は、子供時代から脈々と積み重ねてきた記憶や経験が永遠に続いていく様を象徴しているかのようだ。
尚、ランウェイの舞台セットはフランスの映画監督、ミシェル & オリビエ ゴンドリー兄弟が手掛けた。
目を引くのは、幻のように輪郭の曖昧なモチーフ。セットアップやコートを彩るカラフルなりんごは、色が滲み、霞んでいるかのようなタッチであしらわれ、まるで夢の残像であるかのような余韻を残す。グレーのボーダージャケットには、グラフィティペイントのようなモチーフをオン。スプレーを吹き付けたかのような質感を、きらめきと色の広がりで表現し、遊び心を効かせている。
また、モノグラムにカモフラージュをのせたフーデッドコートやコーチジャケットは、遠くから見ると人の顔が浮き彫りになり、チェックのダブルブレストコートには、唐突に風景のグラフィックが差し込まれている。バーシティジャケットにはいくつものクリスタルを散りばめ、ステンシルを施したかのような風合いで“LOUIS VUITTON”のロゴを浮かび上がらせた。
また、童心を呼び起こすような遊び心は、オーセンティックなフォルムにもひねりの効いたアクセントをもたらしている。たとえば、グレンチェックのセットアップやチェスターコートは、ランダムに布地を貼り合わせるようにして切り替えを施すことでグラフィカルな佇まいに。シャツは襟と前合わせの位置をずらして仕立て、フライトジャケットはポケットやリブの位置を変更することでユニークな装いへと変容させた。
記憶や経験に思いを馳せる時の、頭の中の“イメージ”を喚起するデザインも印象的だ。部屋の中の風景を落とし込んだフーデッドジャケットやパンツは、色とりどりのグラフィックと所々に見られるダメージによって、雑多に蓄積された記憶を辿る時の抽象的なプロセスを思い起こさせる。また、網目に封筒や便箋が引っかかっているかのようなジャケットや、何通もの手紙で構築されたセットアップもまた、人生の中での長い時間の経過や人の記憶を連想させる。