キコ コスタディノフ(Kiko Kostadinov)の2023年秋冬メンズコレクションが発表された。
テーラリングに代表されるだろうメンズウェアの枠組みに裂け目を入れるべく、今季のキコ コスタディノフは、女性のファッション史をかたち作った4人のデザイナー、アンヌ=マリー・ベレッタ(Anne-Marie Beretta)、クリツィア(KRIZIA)、アイリーン・レンツ(Irene Lentz)、そしてソレル・フォンタナ(Sorelle Fontana)に見られる身振りを示すことを試みたという。
たとえばベレッタは、マックスマーラ(Max Mara)のダブルブレストコート「101801」をデザインしたことで知られている。マックスマーラを代表する1着であるこのコートは、発表された1980年代当時の社会状況を映しだすものだ。すなわち、女性がオフィスでパンツスーツを着用し始めた流れを反映し、ジャケットの上からでも羽織れるリラクシングなキモノスリーブやストレートなシルエットを採用することで、女性の日常に寄り添おうとしたのだった。
翻ってキコ コスタディノフにおいては、概して装飾性を廃棄した近代以後のメンズウェアの流れ──ダークカラーでエレガントに仕立てられた、禁欲的なスーツを思い起こせばよい──への抵抗が見られる。たとえば身体にフィットするテーラリングのソリッドな仕立ては、解体されるべきものとなる。シングルブレストジャケットは、肩幅にゆとりを持たせたボックスシルエットで抜け感をもたらしつつ、均整を破るかのようにディテールの素材を切り替える。ダブルブレストコートは、流麗なウールギャバではなく温かみのあるコーデュロイを採用し、スリーブの位置をぐっと落とすことでフォルムに異化作用を加えている。
複雑で左右非対称的なパターンの切り替えも、シンメトリックな均整を掻き乱す役割を担っている。ストライプのシャツやパンツは、組み木細工のようにパターンを組み合わせることで構築。ロングコートには、マルチレイヤー状にファブリックを重ねて波のようにシルエットを組み立てる。あるいはジャケットなどに見るように、エポーレットといったショルダーのディテールは、溶解させたようにドロップさせることで、なだらかな印象を醸し出した。
カラーや装飾性も、近代以来のメンズウェアの禁欲性を打ち破る。グリーンやレッド、ブルー、オレンジといった鮮やかな彩りが、ブラックやホワイトに対して鮮烈なコントラスを生み出すとともに、近代以前に男性の衣裳を飾った紐飾りを彷彿とさせるディテールも用いられている。