イレニサ(IRENISA) 2024年春夏コレクションが発表された。
1950年代から60年代にかけてアメリカで発展した抽象絵画の動向、カラーフィールド・ペインティング。焦点も境界線もない、そんなアートにうかがえる“曖昧さ”を、コレクションの上で表現した。それは例えばひとつのフルーツをとっても、時間帯や光、国や地域によって“見え方”が異なるように、曖昧な色と形が混ざりあうことで生まれるかすかな機微を、丁寧にすくい取ること。そして微かな境界線に生まれる色気を、ひとさじのエッセンスとして、差し込んでいるのが特徴だ。
まず目に留まるのは、セットアップに浮かぶ春夏らしい“ストライプ柄”だ。涼し気な寒色を組み合わせたモチーフだが、そのピッチや配色はおそらくランダム。手書きで線をひいたようなラフな表情に仕上げているだけでなく、生地の切り替えであえてストライプ柄を絶妙にずらすなど、さり気ない境界線を生み出しているのが、いかにも今季らしい。またジャケットの前合わせはボタン一つのみ、パンツはハーフ丈に仕上げるなど、ノンシャランなムードも印象的だ。
複数のジャケットを重ねたレイヤードスタイルは、異なるカラーでありながら、淡いパステルトーンでまとめることで、野暮ったさをそぎ落とした表情に。また洋服そのものは、ややオーバーサイズでありながら、シルエットはあくまで端正にカット。都会の男性に似合う、洗練された表情へと導いている。
シンプルなデザインに、ひっそりと息をひそめるエッジィなディテールもポイントだ。オーバーサイズの白パンツに合わせた、ベージュのジャケットは、左胸に切り込みを入れたかのように、斜めに走るシャープなポケットがアクセントに。
また無駄な装飾を一切そぎ落とした、クリーンな佇まいのロングコートには、袖元にレザーのベルトを通すことで、マニッシュな色気を醸し出していた。