生歌や生演奏による音楽は、作品に生命を吹き込むために大きな役割を担う。シルク・ドゥ・ソレイユの各作品の音楽は、ショーのテーマを反映し、ストーリー性を際立たせている。ほとんどの音楽はオリジナルで、ショーによっては観客が聴き馴染みのあるビートルズやマイケル・ジャクソンの名曲や人気曲をアレンジしたものもあるが、聴いたことがあるようで、初めて耳にするかのような体験ができる楽曲に溢れている。
なお、生歌や生演奏を披露するシンガーやミュージシャンは、ステージ上でパフォーマンスするアーティストたちに合わせて、テンポを調整したり、即興で演奏する能力が求められている。そうした能力により、アーティスト同士が連動し、一体感のあるショーとなる。
アーティストだけでなく、ショーの芸術性や美しさを格段とアップさせるクリエイティブチームも、シルク・ドゥ・ソレイユの魅力を語る上で重要な要素だ。モントリオールにあるシルク・ドゥ・ソレイユ国際本部には、あらゆるクリエイティブ分野の職人や専門家が数多く所属している。クリエイティブ・ディレクター、脚本家、振付師、衣装、照明、セットデザイナーで構成されるクリエイティブチームによるインスピレーションとアイデアにより、ショーが完成する。
中でも、煌びやかでユニークな衣装に注目だ。シルク・ドゥ・ソレイユの衣装工房では、毎年6.5km以上の布を世界中から集め、意匠を凝らした舞台衣装やセットを制作。そのうちの80%は、テキスタイルデザインチームによって、シルクスクリーン、手作業によるペイントなど、様々な技法を駆使して染色・製作が為されている。
衣装チームは、舞台でパフォーマンスや演者を引き立てるようなデザインを常々考えている。過去には配管や歯科の技術などから着想を得て、電池や接着剤、ミニチュアライトなどを使用し、衣装へと落とし込んだ。
ショーテーマに合わせたストーリー性のあるデザインもポイント。たとえば「アレグリア-新たなる光-」では、“希望と再生が必要な王国”という物語の舞台に合わせ、古い貴族たちの衣装は色褪せてボロボロに。古ぼけた傷跡や風合いを再現するため、生地にデジタルプリントを施した。
セットや舞台装置も、シルク・ドゥ・ソレイユのショーテーマと雰囲気を伝えるために不可欠な要素だ。より美しく、またアーティストの安全性に重点を置き、キャストが活躍できるユニークなセットが作り上げられる。セットのほとんどはコンピューターで設計され、厳しいテストプロセスを経て安全性を確保した後に、ようやく完成するのである。
ちなみに「アレグリア-新たなる光-」では、シルク・ドゥ・ソレイユのショーの中で初めて舞台上のすべての照明をLEDに切り替え、演出面だけでなく環境負荷低減も図っているという。
日々進化し続け、完成することがないと言われているシルク・ドゥ・ソレイユのショー。そんな一期一会のショーを、ぜひ一度は鑑賞してみてほしい。