展覧会「『前衛』写真の精神:なんでもないものの変容 瀧口修造・阿部展也・大辻清司・牛腸茂雄」が、東京の渋谷区立松濤美術館にて、2023年12月2日(土)から2024年2月4日(日)まで開催される。千葉市美術館などでも開催された巡回展だ。
1930年代の日本では、海外のシュルレアリスムや抽象芸術の影響のもと、各地で前衛写真が流行した。東京では、美術評論家の瀧口修造(たきぐち しゅうぞう)、絵画と写真で活躍した阿部展也(あべ のぶや)を中心に、「前衛写真協会」が設立されている。技巧的で新規な写真表現に注目が集まるなか、瀧口はこうした風潮に対抗して、ストレートな「記録」としての前衛写真がありうることを指摘したのだった。
日本が太平洋戦争へと向かうなか、前衛表現は規制を受け、瀧口らの運動自体は終わりを迎えることになる。しかし、前衛写真の精神は個々人に受け継がれていた。こうした写真家として、出発点において瀧口と阿部に強く影響を受けた大辻清司(おおつじ きよじ)や、大辻の教え子であった牛腸茂雄(ごちょう しげお)を挙げることができる。
展覧会「『前衛』写真の精神:なんでもないものの変容 瀧口修造・阿部展也・大辻清司・牛腸茂雄」では、瀧口修造、阿部展也、大辻清司、そして牛腸茂雄の4人に着目し、日本写真史における「前衛写真」のひとつの系譜をたどってゆく。
1930年代、前衛写真においてフォトグラムといった表現技法が注目がされるなか、瀧口修造は、技巧を弄するのではなく、日常の深いところに潜むものごとを捉えることを重視した。瀧口にとって写真とは、故意に加工を施さずとも何かを映しだすため、従来の芸術が縛られてきた自我の壁を乗り越えることができるものであったのだ。第1章では、瀧口らが設立した「前衛写真協会」の活動を報告している雑誌『フォトタイムス』や、瀧口の思考を深化させた阿部展也の写真などとともに、瀧口がこうした主張を行った背景を探ってゆく。
大辻清司は、旧制中学在学中に『フォトタイムス』と出会って写真家を志すなど、瀧口や阿部からの強い影響のもと、写真家としてスタートした。しかし、1960年代末、その作品は徐々に変化している。その契機のひとつが、牛腸茂雄をはじめとする教え子の写真学生の存在だ。大辻は、なんでもない様子を少し離れて撮影する彼らの作風を「コンポラ写真」と呼び、自らの作風も転換させてゆくこととなった。第2章では、コンポラ写真に対する大辻の応答とも捉えられる重要作「大辻清司実験室」などを紹介する。
大辻に学んだ牛腸茂雄は、直接的に瀧口と接したわけではないものの、随所に瀧口の影響を見てとることができる。写真集『SELF AND OTHERS』『見慣れた街の中で』などを発表するなかで牛腸は、徐々に精神分析の影響を強く受けていった。牛腸は、精神分析に用いられることもあるインクプロットに取り組んでいるものの、それは瀧口が熱中したシュルレアリスムのデカルコマニーと類似こそすれども、表現は異なっている。第3章では、牛腸の作品を通して、彼が前衛写真から受け継いだものとそこからの変容に光をあてる。
展覧会「『前衛』写真の精神:なんでもないものの変容 瀧口修造・阿部展也・大辻清司・牛腸茂雄」
会期:2023年12月2日(土)〜2024年2月4日(日) 会期中に展示替えあり
[前期 12月2日(土)〜1月8日(月) / 後期 1月10日(水)〜2月4日(日)]
会場:渋谷区立松濤美術館
住所:東京都渋谷区松濤2-14-14
開館時間:10:00〜18:00(入館は17:30まで)
入館料:一般 800円(640円)、大学生 640円(510円)、高校生・60歳以上 400円(320円)、 小・中学生 100円(80円)
※( )内は10名以上の団体および渋谷区民の入館料
※毎週金曜日は渋谷区民無料
※土・日曜日、祝休日は小・中学生無料
※障がい者および付添者1名は無料
【問い合わせ先】
渋谷区立松濤美術館
TEL:03-3465-9421