コーチ(COACH)の2025年秋コレクションが、アメリカ・ニューヨークで発表された。
最もインスピレーションを駆り立てたのは、長年愛用された服の魅力。持ち主ごとの個性が映し出された服は、必然ではない偶然の美しさに満ち溢れている。気取らずともかっこいいし、作り込んでいないけれどスタイリッシュ。自分の気持ちとともに歩むファッションは、いつだって気持ちを高ぶらせてくれるものだ。クラシックの典型ともいえる、スーツスタイルと、コーチらしさたっぷりのレザーを主軸としながら、過去のルールに縛られることのない、気ままなワードローブを見出していく。
ランウェイの中で目立ったシアリングのジャケットまたはベストは、顔を覆うほど高い首元と、極端にコンパクトなクロップド丈。一方で、コートはくるぶしまでのびるロング丈だ。ピタッとしたカットソーインナーと、ワイドなデニムやスラックスによって、シルエットを一層強調している。
特にボトムスは、あえてサイジングをルーズにして、ベルトを締めるとほんの少しシワが寄るほどのゆとりがあるウエストラインと、引き摺るほど長いレングスで設定されている。いずれも従来から言えば、些かアンバランスなシルエットなのかもしれないけれど、今季はそれが魅力。まるでクローゼットからサイズ構わずお気に入りを取り出した後、偶然の賜物としてダイナミックなシルエットが完成したかのようだ。
規律に縛られない奔放な発想は、これまで感じたことのなかった個々の素材やデザイン、服の魅力に触れられる方法ではないだろうか。ニューヨーカーたちが愛するジーンズは、レザーとのランダムなコンビネーションによって生まれ変わり、ディープカラーのニットは、あえて大雑把なステッチで四角いレザーパッチがあしらわれている。コーデュロイのドレスは、まるでベルベッドのようになめらかに肌へと寄り添い、ロマンティックなワンピースやヴィンテージのネグリジェから作られたドレスは、相反的とも思えるマスキュリンなワイドパンツやジーンズとの組み合わせで提案されている。
あどけなさを感じさせるアニマルモチーフは、子供の頃の思い出から形になったもの。ひときわチャーミングな存在感を放ったぬいぐるみのスリッパ、バッグに寄り添うゾウやニンジンのチャームは、今季の気ままなスタイルを象徴するデザインだ。ヴィンテージ加工が施された、コンパクトTのプリントとしても採用されている。また、カトラリーモチーフのアクセサリーやヴィヴィッドカラーのサングラスも、まるで子供みたいな発想で、コレクションにプレイフルなニュアンスをもたらしている。
コーチを語る上で忘れてはならないバッグ群で特筆すべきは、2つの立体ポケットが特徴の新作ボストンバッグ「ツイン ポケット バッグ」だ。タンやブラックの落ち着きあるカラーをメインとし、レザーグッズの伝統を踏襲しながらも、90年代を彷彿とさせるモダンな横長のシルエットに仕上げている。また、ミニマルなホーボー「ブルックリン」とキャリーオールバッグ「エンパイア」は、経年変化を楽しめるベジタブルタンニングレザーを採用しており、一緒に日常をともにすればするほど、自分だけの個性を引き出すことができる。