ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)の2025年秋冬ウィメンズコレクションが発表された。
濃密なテクスチャーが流転する「カーテンの向こう側」──パリのオペラ座、ガルニエ宮を会場に発表された今季のドリス ヴァン ノッテンは、2025年春夏メンズコレクションをもって退任した創業者ドリス・ヴァン・ノッテンののち、新たにクリエイティブディレクターに就任したジュリアン・クロスナーのデビューショーとなった。
2018年にブランドに加わったクロスナーは、創業者のドリスとともに、ウィメンズのデザインに携わってきた。彼が服に関心を抱くようになったのは、幼少期のこと。家族の衣装ケースからさまざまな服を手に取り、組み合わせ、それらを着ることで質感を感じることが、原体験にあったという。そこにはすでに、衣服の肌理に対する、濃密な触覚性を見て取ることができる。
今季のドリス ヴァン ノッテンは、だから、ファブリックという物質が持つ濃密なテクスチャー、色と柄を手繰り寄せ、紡ぎ合わせ、そこから衣服を鮮やかに立ち上がらせる。劇場のステージに艶かしくドレープを織りなす「カーテン」は、そのメタファーとでもいえよう。そして、1枚のファブリックが縫い合わされ、襞をなし、身体を包む衣服へと変幻するダイナミズムを反映するようにして、そこには麗しくも大胆な流動の劇が繰り広げられている──いわば、ダブルのロングコートの大胆なステッチが、濃密な手仕事の過程を想像させるように。
ドレス、テーラリングのジャケットやコートといったウェアは、決して凝固することのない、流麗なフォルムを描きだす。テーラリングは、やや余裕を持たせたショルダーを取り入れ、全体としてリラクシングなシルエットに。ドレスは首周りやショルダー、スカート部分などをアシンメトリックに仕立て、ダイナミックな佇まいを。繊細に波打つような素材感もまた、ドレスの流麗さを余すことなく引き立てている。
アシンメトリックなこうしたドレスやブラウスには特に、流転してやまないフォルムのダイナミズムが反映されているといえる。一方のみをノースリーブで仕立てたドレスは、斜め方向に流れるようなドレープを描く。あるいは、随所にギャザーを寄せ、力強く波打つような表情を織りなすドレスは、1枚のファブリックを手に取って生まれたかのような即興性をも感じさせる。ブラウスのヘムラインは大胆に湾曲し、あるいは大きくとったネックラインは立体的なドレープを生むばかりでなく、衣服の表と裏とを流転するものでもあろう。
衣服を構成する個々の要素もまた、流動してやまない。ジャケットやコートの襟は、大きく設定することで存在感を増す。屈強なイメージを持つテーラードジャケットは、あたかもドレスのようなパフスリーブに。より顕著なのはリブ付きのブルゾンであり、スリーブをバルーン状に膨らませるとともに、そのファブリックは流れるような模様を描く。あるいは、コートの襟はスカートのフラップへと移ろう。このように、個々の構成要素は自在に変幻しつつも、そこには一貫して強烈な流麗さが脈打っている。
流動の劇を繰り広げる舞台──オペラ座を彩る装飾の数々もまた、ドリス ヴァン ノッテンの華やかな佇まいと呼応するように、ウェアの数々を飾っている。たとえば、色とりどりのタッセルは、ノースリーブドレスやノーカラージャケット、コルセットなどを鮮やかに彩る。重厚な柄を織りなす絨毯のジャカードは、ダブルコートやベストへと姿を変えるとともに、艶やかなベルベットもまた顔を出す。質感豊かなこれらの素材にはまた、衣服の質感に触発された、触覚性に対するクロスナーの強い愛着が現れているといえるだろう。