ノワール ケイ ニノミヤ(noir kei ninomiya)の2025年秋冬コレクションが発表された。
人の想像力にはふたつの軸があるといえる。ひとつには、目新しさや多様さを思い描くこと。もうひとつは、存在を深く掘りさげて、そこに原初的なもの、永遠的なものを探し求めること。「ファンタジー(FANTASY)」と題した今季のノワール ケイ ニノミヤは、これら想像力のふたつの軸を架橋する──それは、物質の手触りを種に、想像力を介して、そこから不可思議な造形を立ち昇らせることにほかならない。
そこには、不思議とあどけなさが漂っている。巨大なリボンのモチーフは、ギンガムチェックのベストを飾るばかりでなく、顔をも覆うトップスや、ノースリーブのワンピースを結いなす。グレンチェックのテーラードジャケットは柔らかなラインを描き、ブラウスは黒地に花柄が浮かぶ。あるいは、立体的な花のモチーフはトップスやオーバードレスへと凝固し、果ては眠りへと誘う回転オルゴールのごとく、身体の周りをゆれ動く。
「Handworkに重きを置き、幼い頃に遊んだような、チープでキッチュな素材」を選んだと、ノワール ケイ ニノミヤは今季のコレクションに寄せて記している。どこかあどけなさを感じるモチーフが選ばれたのは、現実的な制約、社会的な常識にとらわれる以前、自由気ままに空想を膨らませた幼少期の自由さゆえではなかったろうか。その記憶を今へと繋ぐ縁こそ、リボンや花など、確かに手触りを持つ「物質」であったろう。
「チープでキッチュ」と形容されるのが、たとえば硬質な樹脂、レジンなどである。可塑的なレジンは、自在に形を作るけれども、ファブリックが刻一刻とドレープを織りなし、風に揺らめくのとは対照的に、いったん凝固すれば、一定の形を保ち続ける。このように、物質が持つある種の硬さが、想像力を介して紡がれるさまざまな造形に、確かな存在感を付与しているといえる。
たとえばワンピースでは、スカート部分が円錐状に枝分かれするも、それぞれのヘムにはフープを忍ばせることで、円錐の立体感はそのままに、波打つような躍動感を与えている。ビニールテープが絡みあうかのような球体は、互いに縺れあっては確かなボリュームを獲得し、あたかも分子が物を形作るようにして、量感あふれるドレスを織りなしているのだ。
物質の硬質な肌理に宿る、想像力の柔らかな飛躍。そこに、硬い殻に棲まう柔らかな貝類を重ねてもよいかもしれない。詩的想像力について思索を深めたガストン・バシュラールは、貝殻とは「内部から建築する、その夢」であり、「内部から形をなしてゆく」のだと書いた。一見静かな物の裡には、拡大する動きが脈打つ。それならば、硬質なレジンが突き刺すように生い茂るトップスやワンピースは、どこまでも可変なイメージが外側へと発露した、物質と想像力の結合を見てとってもよいのかもしれない。