2014年10月14日、ヒロコ コシノ(HIROKO KOSHINO)が2015年春夏コレクションを発表した。キーワードとなったのは「時の彷徨」。
会場を満たした聖歌が告げた、ショーの始まり。ランウェイの奥にあるスクリーンに映し出された、神殿の柱の間を歩くモデルがまとったのは、全身ホワイトとシルバーで統一した衣装だった。古代ギリシア人が身につけた衣装・ペプロスを彷彿とさせるようなたっぷりとしたシルエットに、現代的な雰囲気を持つ、光沢のある素材とミニ丈の裾、メタリックなサンダル。そう、小篠弘子の言う「時の彷徨」とは、おそらく古代と現代を行き来することで生み出されるデザインのことなのだ。
ホワイト・シルバーをベースとしたルックは、ショーの序盤を形成していく。途中現れる大胆なグラフィックは、壁画のように抽象的だ。古代の記憶をたどるかのように、ベルトやサンダルに施されるのは、美しく輝くストーン。その一方で、そこには凶暴なほどに鋭利なスタッズも混在し、大きな存在感をにじませている。
中盤からは一転、ビートの利いた音楽と共に、鮮やかすぎるほど色とりどりのグラフィックがショーを彩っていく。幾何学模様や、手書きアート風のグラフィック、エスニック柄などビビッドなプリントが、スニーカーやオールインワンなどカジュアルなスタイルを埋め尽くしていく様子は、枠に囚われない自由さと、底抜けの明るさを感じさせる。時には壁画に彩色したかのような強烈なモチーフも登場し、明確なインパクトを会場に落とした。
そしてラスト、刻まれるビートとともに、会場は再び聖歌の響きに包まれる。奥から現れたのは、まるで牧師の黒い衣装をドレスに昇華したかのような、ユニークなドレスの数々だった。モダンさを表す直線的なカッティングと、伝統を表す刺繍。禁欲的なブラックカラーやフラットシューズと、打ち込まれたスタッズ。黒一色のスタイルに内包されるのは、そんな数えきれないほどの対比だ。そしてその最後まで続いたコントラストは、コレクションを新鮮に見せる、大きな要素となっていた。