ミラノ・メンズコレクションでも屈指の人気ブランド「ヴェルサーチ(VERSACE)」。会場には招待客と招待状を持っていないファンが大挙して集まり、高級ブティックが立ち並ぶミラノのジェズー通り沿いは毎回、開演1時間前からちょっとしたパニック状態になる。
そんな会場外の喧噪とは異なり、2015-16年秋冬のヴェルサーチのコレクションは、かつてないほどにエレガントかつ時代感のあるものだった。とくに、濃いブラウン〜ミルクコーヒーブラウン〜ベージュの茶のカラーパレットのスタイリングは、世界的に流行しているラグジュアリー・ストリートの要素が強く、新たなファン層を開拓できるような魅力に満ちている。
ブラウンのスタイリングは、一言で言うと「カニエ・ウェスト的なストリート感のあるラグジュアリー」である。カニエがベージュにカシミヤのチェスターコートにコットンのスウェットパーカーを合わせるような姿を想像してもらえば分かるだろうか。ヴェルサーチの茶色は、従来のゴールドを強調したラグジュアリーとは異なる「音の背景を感じさせるラグジュアリー」なのだ。
代表的なのは、カシミヤと思われるルーズなシルエットのセーターとマフラーにベージュのファー付きのコートをゆったりはおり、足元にレザースニーカーを合わせるスタイル。ロングニットカーディガンに毛足の短いリアルファーのパーカーガウンを合わせたルックは、まさに今を生きるヒップホップスターの普段着を連想させる。
シューズは、レザーのバスケットシューズと70年代のディスコ調のエキゾチックレザーのビットモカシンの2択。ベージュ、ブラウン、ネイビー、ブラックの4色の色バリエーションのバスケットシューズは、上質なレザーをふんだんに使っており、ラグジュアリー・ストリートに相応しい逸品として人気を集めそうだ。
スーツは、ヘアピンのようなものをボタンの代わりに使ったピークドラペルのダブルブレスト、ボタン位置が低めの1ボタンジャケットに、やや太めのパンツのコンビネーション。
傍目にはレギンスに下着が見えんばかりの短いスカートを合わせているようで、男らしい世界観の中にフェミニンなスパイスを加えている。
ヴェルサーチ名物のマッチョなモデルの裸体、従来のキラキラした世界観を今回は封印。これまでの様式美と異なるきらいはあるが、時代感のあるヴェルサーチの登場を歓迎しようではないか。
Text by Kaijiro Masuda(FASHION JOURNALIST)