リック・オウエンス(Rick Owens)は2016年春夏コレクションをフランス・パリで発表した。テーマは「Protesting male aggression(男性の攻撃に対する抗議)」。といっても、素材感は少し春夏らしく軽くなっているものの、いつものリックらしい男らしさは不変。リックの“反抗”を読み解いていくとしよう。
ファーストルックは、袖とヘムをカットオフしたロング丈のノースリーブのトップスを主役に、膝上丈の黒のショートパンツ、2つのプルストラップが飛び出たペコスブーツを合わせている。トップスはアメリカのミリタリージャケット「M-65」のポケットと袖を削ぎ落として丈を長くしたようなデザインで、素材はレザーとコットンをボンディングしてユーズド加工したような雰囲気。デザインの原型が透けて見えるのはリックにしては珍しい。このM-65ベースのトップスはコレクションのキーアイテムで、素材をスムースレザーや中央部のみ色を落としたブラックデニムに変えたり、前面に6つのポケットを配したり、色をベージュゴールドにしたり、様々なバリエーションで見せている。
なにか意味ありげな「○(まる)」のモチーフも多く見られる。顔の部分のみを丸く見えるようにした鳥の巣のような髪型は、どこかユーモラスで迫力満点だが、戦地で頭をカモフラージュした戦士のようにも見える。胸の部分に丸い別布を配したカットソーは、心にぽっかり穴の開いた心情を表しているようにも、人間の邪悪な心を表しているようにも見える。カットソーにプリントされた目の感情の移り変わりを切り取ったようなモチーフも、なんらかのメッセージを発しているような気がしてならない。
後半に入ると、民族衣装調のバッグをたすき掛けしたようなモチーフが登場。ノースリーブのカットソーに赤とオレンジのバッグを縫い付けたようなアイテムは、立体的かつ有機的なデザインで、洋服というよりはアート作品のようだ。
ボトムスは、膝上丈のショートパンツ、クオーター丈のパンツのシンプルな構成。シューズは、前出のペコスブーツの他、編み上げのコンバットブーツ、ソックスと一体になったようなレザーブーツ、サンダルとブーツを融合させたようなアディダスとのコラボレーションシューズを提案。カラーパレットは、ブラックが中心であることに変わりはないが、ホワイト、ベージュ、ブラウン、シルバー、ゴールドに加え、ペールグリーン、オレンジ、レッドとあまりイメージにない色を挿している。
さて、リックがコレクションを通して訴えたかったことだが、やはり現代の様々な争いへの異議と解釈するのが正しいだろう。2015-16年秋冬コレクションの直前に起きた1月のシャルリー・エブド事件をはじめ、各地で頻発するテロ、民族間宗教間の争いに対する抗議を、あえて軍服というモチーフを使うことで訴えたように思えた。他人を傷つける行為は、まったくもって男らしくないのである。
TEXT by Kaijiro Masuda(FASHION JOURNALIST)