石留め職人は、サファイアやルビー、エメラルド、ダイヤモンドなどの宝石をジュエリーに固定する作業を専門としている。会場では、馬の頭部をアレンジしたブレスレット「ギャロップ」に、ピンセットでパヴェダイヤモンドを掴み、セッティングする細かな仕事をみることができる。
素材はゴールドとダイヤを使用。石をどのように留めるかというと、「エショップ」と呼ばれるステンレススティール製の針でゴールドのグレイン(爪)を持ち上げ、石をはめたあと、グレインを上に被せるように折り返して固定している。作業が細かすぎるため、顕微鏡の使用もしばしば。
実は、この「ギャロップ」には、約2500個ものダイヤが散りばめられる。だが、1時間に留められる石の数は約10個。制作は1人で行うので、約250時間くらいの時間が必要だ。
なぜ、これほどの時間が必要なのか。それは、作業の精密さ以上に、石の種類・個性を見分け、ブレスレットの部位によって、美しく輝くようにセッティングしているからだ。例えば、馬の鼻の部分には他のものよりも大きいダイヤをつけ、曲線部分には滑らかで細かいダイヤを留め、オブジェとしての存在感を増している。
様々なカラーで美しい物語を描くエルメスのカレ(スカーフ)は、今でも1枚1枚、人が行うシルクスクリーンで作られている。だが、色をつけるまでには、グラフィックデザイナーと製版職人の仕事が欠かせない。
グラフィックデザイナーは、エルメスのカレの手書きの原画を作り上げる。そして、その原画をデジタルに取り込み、製版職人がシルクスクリーンの型を作るために線と色を付けていく。デザインに忠実に、線、色を付けていくには何十色ものカラーが必要だ。そして、その分、シルクスクリーンの型も増えていく。つまり、30色で構成されたデザインには、30枚のフレームが必要になる。
シルクスクリーン職人は「フラットフレーム」という技法を用いる。この技法は1930年にリヨンで始まったことから「リヨン式フレーム」とも呼ばれる、職人は、真っ白なシルクツイル地をプリント台に張ったあと、メッシュと呼ばれる薄い布を張ったステンレススティール製のフレームをその上にのせる。
メッシュにインクを流し込み、ゴム製のスクイージーで広げていく。1色ごとにフレームを差し替えながら、布に色を塗り重ね、プリントが終わったら乾かし、色止めをし、洗浄。これでスカーフになる準備が整う。人物のような複雑なデザインは、1っ箇所の表現に15枚ものフレームを使うこともあるそうだ。
エルメスのカレの最後の仕上げを施すのは「縁かがり職人」だ。カレの縁をくるりと巻き込み縫う“ルロタージュ”と呼ばれるフランス特有の技法を見ることができる。全て手縫いで、カレの4周に均一な針目が並ぶ。正確なテクニックが要求される技法で、シルクツイル、カシミア、シルクモスリンなど、どんな素材でも早く正確に仕上げるためには、長い経験が必要だ。