エルメスのネクタイの最大の特徴、それは1本の糸で、手で縫い上げることだ。エルメスのネクタイの美しさは、手縫いの細やかな仕事に支えられている。
ネクタイ縫製職人が教えてくれた話で印象的だったのは「ネクタイを使用しているうちに出てくる変形は“ある方法”で直せる」ということ。
方法は、ネクタイの中にある1本の糸を引っ張り、一度ネクタイを縮めたあと、もう一度生地を伸ばすこと。職人がネクタイの仕上げに行っている方法で、これは誰にでもできるようになっている。まさに、一本の糸で作られているからできる技だろう。
まるで、肌そのもののように感じられる手袋を作る職人。来日は今回が初となる。
彼は、手袋用の革を、パイ生地のように、出来る限り引き伸ばす「デペサージュ」と呼ばれる工程により、型崩れしない手袋を作り上げる。実際に触ってみたが、これをやるとやらないとでは、まったく革の心地が異なる。手に馴染んでくる、しなやかで滑らかな革が目の前で出来上がる感動を味わってほしい。
エルメスの食器の絵を手掛ける磁器絵付職人。フランスのリモージュ近郊のアトリエで、特別な作品を手がける職人の技術はきわめて繊細だ。
デザイン画をもとに、磁器を焼いた後、“色をどのくらい近づけられる”か。まず絵の具を混ぜ合わせて、実際に焼き、確かめなければならない。その工程を経てから、複数の筆やスポンジを使い分け、輪郭線やベタ塗りなど色鮮やかに仕上げていく。
会場では、時計職人により、機械式時計の組み立ての精密な工程も見ることができる。ムーブメントは、ばらばらのパーツを組み合わせる微小な積み木を思わせる、シンプルなもので100個、複雑なものになると1,000個以上のパーツが必要になる。