奥行きを感じる色味のブラックやベージュのメルトンコートは、ピーコートやチェスターコートを展開。現在ではすっかりザ・リラクスの定番アイテムとなり、多くの人々から愛されるモデルとなった。使用されている「スーパー140's」ウールメルトンの、シックな光沢感と、しなやかで温かい手触りが高級感を演出する。凛とした存在感は、緩やかにAラインを描く立体的なシルエットと、ハリのある生地の重厚感によるものだ。2017-18年秋冬の「スーパー140's」メルトン生地は、厚みやハリ、コシといった風合いのバランスが取れた、至高の生地に仕上がったという。
スーパー140'sとは
スーパー80'sや110'sなどから140's、170'sなど様々な種類のウールが存在するが、スーパーに続く数字が大きい方がより高級な原料と言われている。中でも、140'sは上質でありながら、しわになりづらい生地感が特徴的。独特の光沢感と、しっとりとした滑らかな触り心地で、エレガントな雰囲気を表現する。
ザ・リラクスオリジナルの「スーパー140's」メルトンのベースとなる生地は、約20年前に、生地の加工企画を手掛ける機屋・森保によって、ヨーロッパメゾンからの要求を受けて作られたものだ。森保は、現在に至るまでに、いくつものメゾンから発注を受け、それぞれの注文に沿う形で「スーパー140's」メルトンを生産、輸出も行う。その中で物作りの精度を高めていった、創業53年を誇る機屋だ。
上質ではあるが、その繊細さゆえに加工が難しい「スーパー140's」を注文通りの風合いに仕上げるのは難しく、森保の長年の経験の賜物だという。良い生地の噂を聞きつけて、森保に直談判したのが、ザ・リラクスだ。その経緯を森保の代表取締役である森に聞いた。
一緒に取り組み始めたのはいつからですか。
森:ザ・リラクスが2012年秋冬シーズンの制作を始めるときに、「『スーパー140's』を使いたいブランドがあるから、お願いできないか?」と紹介されて、すぐに倉橋さんに来ていただいた。そこからの始まりだよね。
直行:最初は、コートを40着作れる程度の小さなロットからお願いさせていただいたんです。森社長は利益を度外視して受け入れてくださったんですよね。
森:そうですね、ロットも小さいしお断りしようかなとも思ったのですが、とりあえずお会いして話を聞きました。自分達でブランドを立ち上げて、自ら足を運んで交渉しに来た倉橋さんから「スーパー140's」をアレンジして使いたいという意向を聞き、物作りへの熱意や探求心を感じたんですよね。こだわった物作りには僕達も協力したい。そこからお付き合いが始まりました。
良い生地を作るにあたり、最初からエキスパートではなかったというザ・リラクスの二人。わからないことがあれば知識のある人に聞き、良い生地があると分かれば実際にメーカーに足を運んで話を聞くなど、積極的なリサーチの積み重ねを経て、知識を蓄えていったという。
「スーパー140's」のメルトン生地を作るにあたり難しいことは何ですか?
森:加工段階の調整が難しい。良い原料を使っていても整理加工で失敗すると、良い風合いに仕上がらないんです。メルトンは、縮絨(しゅくじゅう)し生地の密度を詰めていく時のコントロール次第で生地のハリ感やバランスが変わる。「スーパー140's」は、他の素材と比べて加工前後の変化が激しく、特にコントロールが難しい。整理加工工場さんの技術と、丁寧で細かい森保の指示がうまくマッチングしたからこそできた生地だと思います。
「スーパー140's」のように上質なウールを使って重厚なメルトンを作ることは、20年前当時は珍しいことであった。森保が繊細な「スーパー140's」を使ってあえて、厚みのあるメルトン素材に仕上げたことで、圧倒的にしなやかな触り心地と立体感が両立。ザ・リラクスの倉橋直行は、触った瞬間に圧倒的な、素材の良さを感じ取ったという。
20年前に生まれた「スーパー140's」メルトンをベースにザ・リラクスオリジナルの生地を作ることは、森保にとっても面白いチャレンジだったのですか。
森:面白いですね。倉橋さんからこういう生地にしたいという要望を聞いて、別注で糸を引いて、満足して頂けるものに仕上げるというのは、大変でもありますけど。この商品を世に流したいっていうブランドの熱意に対して、うちも協力できるところまでは協力していきたい。毎年うちの商品を使ってもらって、服が売れたと言われるのが一番ありがたいし、売上も増えてお互いにハッピーになれますからね。
森保の物作りにかける情熱を実感しました。良い物作りをするにあたり、どのようなことを重視していますか。
森:取引先との信頼関係構築と、そのためのノウハウを作っていくことです。機屋である以上、森保は様々な取引先に依頼をかける立場なので、いかに整理加工工場さんや織屋さん、糸染屋さん、撚糸屋さんなどに、森保と仕事をしたいと思ってもらえるかが大事。そのためにはスムーズに進行できるためのノウハウが必要になってくる。だから常に僕達も勉強していかなければならないんです。
「スーパー140's」メルトンを生み出す過程には、ブランドと機屋の間だけではなく、実際に生地に加工を施す整理加工工場とのやり取りも必須となる。森保からの加工指示をもとに、整理加工を担うのはソトー。ソトーの工場内部を取材し、メルトンができるまでの工程を追った。
2017年秋冬のアイテムに使用する生地の企画は、2016年の11月にスタート。2月の商品展示会でアイテムサンプルを出展することを考慮し、1月末にはサンプルを作る分の生地が完成している必要がある。限られた納期の中で、シーズンごとに変わるブランドの要求をどれだけ実現させることができるかが毎シーズンの課題だ。