機屋である森保とザ・リラクスの間でどういう生地にしたいかを決めた後に、森保が作成する加工指示書に基づき、ソトーが加工を行う。理想の生地が仕上がるまで、三者間での何回ものやり取りを経て生地が生み出されるということだ。ザ・リラクスの発注する生地は特に、そのこだわりゆえに緻密な工程を必要とする場合が多く、森保とソトーによる試行錯誤の積み重ねも毎シーズン行われている。
ウールは、原料となる糸のコンディションが年によって変動するため、加工時の反応もそれに伴い毎年変わる。「スーパー140's」は特に、繊細な原料を使うため変化が激しく、加工による反応が安定しない。染める色が異なるというだけで、仕上がりの風合いに差が出るため、色ごとに別々の工程を組む必要がある。美しく滑らかな生地作りには、一見非効率にも見える作業を繰り返し、手間と時間を惜しまずに工程を踏んでいかなければならない。
整理加工の一部を紹介。「スーパー140's」メルトンは、縮絨→起毛→剪毛の手順を3回ほど繰り返すことで、しなやかでありながらハリコシのある質感を作り出す。コートを形作るにあたり立体的に仕立てるには、この工程で生まれるしっかりとした質感が非常に重要な要素となる。
ローラーの中に濡れた状態のウールを高速で押し込み、揉みこむことで密度を高くするのが縮絨。高圧であればあるほど高密度になるが、シワにもなりやすいので高圧にする場合は別の工夫によってシワを消す。
縮絨によって毛羽立った繊維を、かぎ針・なで針の2種類の針で起毛。この工程により、柔軟でボリュームのある生地に仕上がる。
“剪毛(せんもう)”工程では、風合いの希望に合わせてコントロールしながら、毛羽をローラーカッターで刈り取る。人の手による微調整も。毛羽を刈りすぎると表面の地組織が見えてしまい、逆に残しすぎると毛が起きてしまう。
縮絨から剪毛の工程を繰り返した後に、プレスをかけ、仕上げの“蒸絨”工程に進む。
生地独特の光沢感は最終工程の「蒸し」によるもの。圧力と蒸気で、表面の形状を一定にする。
今では当初の10倍以上の規模で作られるようになったザ・リラクスのコート。特にピーコートは、ここ4年程はマイナーチェンジを加えながらも、定番コートとして制作されているモデルだ。ピーコートが放つ、独自の美しさの秘密をザ・リラクスの2人に聞いた。
定番アイテムのピーコートは、素材の良さも勿論のこと、フォルムの美しさも魅力的ですね。
直実:ピーコートの原型であるアメリカ海軍のコートは、着丈が短くてコンパクトなシルエットが一般的なのですが、ザ・リラクスのピーコートは丈を長めにとり、女性が美しく見えるAラインのシルエットにしています。肩の部分はタイトに作って、左右の身頃の打ち合わせは生地を沢山使って深くとることで、前を閉めて着た時はコンパクトに、開けて着た時はダイナミックな分量感が出るようにしています。
直行:ピーコートを形作る上で目指しているのは、誰が着ても身体が美しく見えること。着た人が立った時、動いた時に美しいように、誰が着ても同じフォルムが形成されるように設計しています。
ボタンや風除けといったディテールにも丁寧なこだわりを感じます。
直実:ボタンも全部オリジナルで作っています。水牛の角を大胆に使って、ボリューム感のあるシルエットに合うよう、大きいボタンにしています。ピーコート以外でも、それぞれのコートに合うボタンを作り、細部で仕上がりのバランスをとっています。
直行:風除けに関しては、美しさとは少し異なる意味合いで付けたものです。僕達のルールとして、完璧なクリエーションの中にもどこか1箇所崩れたところが存在しなければならないんです。たとえば完璧な左右対称の顔って存在しないじゃないですか。風除けをつけることによってコートはアシンメトリーになるんです。ザ・リラクスの全アイテムに付属で付けているピンバッジも、同様の意味で付けています。