少しだけ回り道をしてからファッションの道に進んだのですね。ファッションスクールでの生活はいかがでしたか?
とにかく楽しかったです。勉強というよりも私にとっては自由な時間でしかありませんでした。フルタイムで働きながら学校に通っていたのですがそれも全く苦にならなかったほどです。パターンやデザイン画など、ファッションデザインに関わる全てのことを教えてもらったのですが、最終的に私が選んだのはやはりニットでした。だから、卒業制作もニットウェアを作りました。
ラグネ・キカスの卒業制作「Dress Code Defensive」は、後にヨウジヤマモトに入社するきっかけとなる、イエール国際モード&写真フェスティバル2012に出品された作品。山本耀司が審査委員長を務め、その他にも写真家のパオロ・ロベルシや「i-D」マガジンの初代編集長テリー・ジョーンズなどが審査を担当したという。「Dress Code Defensive」は、メンズウィメンズ含め、すべての出品作品の中で実質2位と3位に相当する賞を受賞。
2012年のイエールのコンペティションの時は、既に山本耀司さんをご存知でしたか。
ファッションを学ぶ人なら誰でもそうだと思いますが、私も勿論知っていました。山本耀司さんに関する本を読んだ時に、いわゆる“ファッションピープル”の表層的な空気感を嫌う、耀司さんの考え方に私はとても共感したのです。「こんな独特の世界観を持った人がいたなんて!」と、とても驚きました。そして、耀司さんのような考えの人が世界で活躍していけるのであれば、似た考えを持つ自分もきっと生き残っていける、と希望に思いました。
コンペティションの時に、直接山本耀司さんとお話されたのですか。
はい。私が作品を展開していたスペースに耀司さんが来て、「とても力強い作品だ。どんどんクリエーションを続けてくださいね。より商業的な物作りも考えてみた方がいい。」と言ってくれました。あと、「もう仕事の心配はしなくていいね。」と冗談っぽく言われたのですが、当時その意味がよくわからなくて。改めて考えてみて、耀司さんが私にヨウジヤマモトでのオファーをくださったのだと気付きました。
山本耀司さんご本人直々のオファーだったのですね。日本に来ることに対して抵抗はありませんでしたか?
抵抗はなく、すぐに準備して日本に行きました。16歳の時に既に故郷を出てドイツに行っていましたし、何の問題もありませんでした。
2012年11月にヨウジヤマモトに入社。アトリエに入ってみて感想はいかがでしたか?
コレクション制作の直前に入ったので、みんなとにかく忙しくて、私に「バタバタしてごめんなさい。」と謝ってくれるんだけど、ヨウジヤマモトで働くために日本に来たので、忙しくても十分すぎるほど幸せでした。宝くじに当たるくらいの幸運を手にしていたわけですから、今でも毎日がエキサイティングです。
ヨウジヤマモトのクリエーションに参加して、山本耀司さんから要求される物作りのクオリティに対してどのように感じていましたか?
ハイクオリティなリクエストを耀司さんから頂くことに対しては、とても嬉しく思っていました。でも、耀司さんが求める基準に見合ったものを作れているかどうか、ということにおいてはいつも不安に感じています。終わった瞬間にもっとうまくできたのに、といつも感じます。完璧はないからこそ次へと向かっていけるんです。
2016-17年秋冬シーズンから、ラグネ キカス フォー ヨウジヤマモトが立ち上がります。何か、こういう物作りをしたい、という明確なアイディアがあってのことだったのでしょうか。
いいえ。ラグネ キカス フォー ヨウジヤマモトのクリエーションをしていくときも、特定のアイディア、というよりは、私の感覚に沿って物作りをしていく、それだけです。耀司さんから「ラグネのクリエーションには、ヨウジヤマモトと少し異なる“フェミニンさ”のような要素があるから、自分のブランドを作ってみたら?」と言われたのがきっかけでした。
山本耀司さんは、怒りや失望といったネガティブなパワーを反映させた、メッセ―ジ性の強い作品を作っている印象があります。ラグネさんの物作りの原動力はどこにあるのでしょうか。
怒りや苦しみ、失望といった感情は私も持っています。物作りそのものに対しても、アイディアが出ない時や良いものができない時はストレスがかかりますし、ため込んだ強い感情を物作りで発散しています。耀司さんと私が異なる点としては、耀司さんは作品に感情を投影し、強いメッセージを表現していますが、私はそういった感情を原動力、モチベーションに変化させます。その原動力が物を作る強い後押しになっているのです。幸福なパワーよりも、ネガティブなパワーの方が力強いですよね。
物作りの時にピリピリしてしまうこともあるのですね。
コレクションの制作に取り掛かるまではいつも、どうやって始めればいいのかわからない程ネガティブになってしまうのですが、いざ制作を始めてしまえば、クリエーションへの熱意が火のように燃え上がってきます。一番怖いのは、物作りに対するインスピレーションが枯渇したり飽きてしまったりすることです。
今後の目標は何ですか?
とてもシンプルですが、プロフェッショナルとして、日々より成長していくことです。一緒に働くアトリエのチームの中で、お互いをより理解し合ってコミュニケーションをもっとスムーズにとっていきたいですし、自身の技術の水準も向上させていきたいと考えています。