アメリカを代表するブランド、ラグ & ボーン(rag & bone)(rag & bone)。正規のファッション教育を受けたことのない異色のデザイナーたちによって築かれたが、ジーンズコレクションを皮切りに次々とアイテムを発表。今や国内外から多くの注目を集めるブランドにまで発展した。
今回は、そんなブランドのCEOかつクリエティブディレクターであるマーカス・ウェインライトにインタビュー。ブランド初期のストーリーやモノづくりへの想い、そして現在のクリエーション活動について話を伺った。
ブランド立ち上げのきっかけは?
もともとブランドとしてビジネス的なスタートを切ったわけではなく、自分自身の為の服作りを追求していました。当時は、ジャケットやジーンズといった僕の大好きな服をパーフェクトにしたい!という熱い情熱に突き動かされていましたね。
”どうしても成功しなければいけない”という重圧も特に感じてはいませんでした。だから収益などの数字に対して気に掛ける事はあったけれども、諦めそうになってそこから・・・!というようなドラマチックな展開はあまり経験しなかったかな(笑)当時は、ただただ楽しかったことを覚えています。
初期と現在のコレクションを比較して大きく変わったことはありますか?
最初のコレクションは、純粋にメンズウェアと呼べるものだけを展開していましたが、現在はウィメンズコレクションも発表していることです。
ラグ & ボーンのウィメンズは、ブランドの核であるメンズウェアからインスピレーションを受けて制作しています。ブランドが成長していく中で、メインのメンズだけでなく、そんなウィメンズラインも伸ばしてきたことが一番の変化でした。
それからデザインの点。当時僕ひとりが行っていたものを、現在は大きなチームで取り組んでいます。
ウィメンズラインをやろうと思ったきっかけは?
僕の妻に、”私の服も作って”てお願いされたからです。
その後2011年には海外で初となる店舗を日本の表参道に構えましたね。日本を選んだ理由を教えてください。
日本の人々に支持されることが、ブランドを育てていく上ですごく重要な場だと考えたからです。
商品が何であれ、日本人のモノづくりに対する意欲、素材やディテールを大事にする姿勢には僕自身すごくリスペクトしています。そういった職人たちの商品で溢れる日本で受け入れられる、成功することが、個人的にすごく意味があると感じました。
それから、日本ではラグ & ボーンの服を早い段階から取り扱っているセレクトショップもあったから、ずっと縁のある土地でもありましたね。
日本とアメリカでは、異なるファッション文化を感じましたか?
日本とアメリカでは、ビジュアルイメージひとつをとっても全然違います。例えばアメリカでは、ウィメンズとメンズのイメージの間にそれほど距離は感じられない。ウィメンズもメンズの延長上のような感じなんです。けれど日本では、(メンズ・ウィメンズが)全くの別物という認識。両者をはっきりと区別したイメージを求められます。
それから初めて日本に来た時、原宿を歩いていたんですが、通りに並ぶブランドの数に目を丸くしました。アメリカはそんなにブランドで溢れていませんからね。こんな激戦地で、日本のブランドはどうやって生き延びているのだろうって不思議に思いました。
それでもアメリカと市場が違うことは良い刺激だし、最近日本でラグ & ボーンの新しいパートナーが見つかったからすごくワクワクしています。
その後、展開をさらに世界に拡げたことで、変化したことはありますか?
ブランドが成長していけばいくほど、様々な地域の人々に合わせていく、応用力が求められるようになったこと。例えば、ニューヨークの人々に求められるデザインやウェアは、ロンドンや東京の人々に受け入れられるとは限りません。
アメリカひとつを例にとっても、メンズ・ウィメンズ・ジーンズ・シューズのラインがあります。それらの広範囲なアイテムを提供しようとすればするほど、どんどん複雑になっていく。その土地の文化やファッションを熟知したインターナショナルな人材も必要になりますしね。
ラグ & ボーン設立2年目の時に心配しなくてよかったようなことも、ブランドの年を重ねるごとに感じることもあります。”もっと成長しなければならない”って。
そんな中でも、ラグ&ボーンの知名度を世界に浸透させた成功の秘訣は?
ラグ&ボーンを設立してから16年間、”信頼性のある、本物の服を作る”というぶれない軸を持ち続けていることです。
当初僕らはファッションのことを何も知らずにブランドを立ち上げました。今でも僕らの大好きなワークウェアにイギリスのテイラーリング技術を組み合わたり、ミリタリー系のひねりを加えたり、日本の素晴らしい繊維を取り入れたり…‥。考え方やアプローチの方法は、全くぶれずに服を作り続けています。
16年間ぶれずに、というのはなかなか難しそうですが、その信念を持ち続けることができた背景を教えてください。
ブランドを立ち上げた当初、僕たちはジーンズを一本$280くらいで販売していましたが、同価格帯でデニムを売る競合他社がいなかったのですごく順調でした。けれど、そこへいわゆるプレミアムデニム市場のようなものが再び人気を得るようになって。アメリカでは、アレキサンダー ワン(ALEXANDER WANG)や3.1 フィリップ リム(3.1 Phillip Lim)が、欧州ではアクネ ストゥディオズ(Acne Studios)といったブランドが台頭してきたんです。
ラグ&ボーンの成長はそれからスピードダウンしたけれど、時を経てまた昇りつめることができました。僕がそこから学んだことは、ファッションって円環を描いているようなものなんだってこと。流行に影響されながら、昇ったり落ちたりの繰り返しなんですよね。
つまり、話題性や流行に集中して昇ることはいくらでもできるけれど、一方でそれは長くは続かない。常に"信頼性のある、本物の服を作る"という、僕たちのぶれないアイデンティティを持ち続けることが大切なんです。同時に、僕たち自身も時代の流れと共に進化して続けることも必要だけれど。
ブランドの取り組みとして“進化”されたことはありますか?
最近だと、ブランドの新しいアプローチとしてショートフィルムを始めました。メンズのファッションショーをランウェイ以外でみせる他の方法があるんじゃないのかと考えていた時に、思いついたアイディアなんです。
もとから信頼性のあるコンテンツを自分たちで作ることにも興味をもっていたけれど、それは僕らにとって愛するフィルムでした。ラグ&ボーンのファッションを代弁してくれるものだって、ピンと来たんですよ。
ファッションとはまた違った難しさがあると思いますが、演出など自身の考えをどうやって反映させていますか?
自分は写真家でもなければ映画作家でもないから、それぞれの分野で才能あふれる人を選びたいと思っています。作品を作る際には、監督は特に重要。
これは僕のスタイルなんですが、監督には本当に自由に演出をやってもらっています。例えば、“D.I.Y”というキャンペーンを行った時も、モデル達にバッグに入った服とカメラを渡して好きに撮って良いという指示を出しました。(笑)着てもらわなければならない衣装は僕が出すけれど、スタイリングやロケ地、撮り方はすべてお任せ。拘りの演出を手掛ける他のブランドとは、全く逆方向のアプローチですよね。(笑)
ブランドウェアのデザインのみならず、多岐なクリエーション活動を続けるマーカス・ウェインライト。2018年3月には、「ライカ M モノクローム(Typ 246)‘Stealth Edition’」とコラボレートし、暗闇の中でカメラが発光する斬新なデザインが話題となった。