日本を代表する伝統工芸、友禅染め。歴史上、最初に誕生したとされる京手描友禅の特徴とその染色工程に迫った。
絵画的で色彩の濃い模様が特徴の京手描友禅。京都の扇絵師”宮崎友禅斎”が描く扇絵の画風を着物のデザインに取り入れたことが発祥とされる。模様の縁に糊を付け、染料を堰き止めることによって、繊細な色の塗り分けができるようになったことも友禅が発展した理由の1つだ。
1つの友禅が完成するまでには、下絵、糊置(のりおき)、引染(ひきぞめ)、挿友禅(さしゆうぜん)など、少なくとも約14~15の複雑な工程が必要となる。この各工程を分業し、専門の職人が受け持つことも、京手描友禅の特徴だ。友禅には1人の職人が全工程を担当する加賀友禅も存在する。加賀友禅が製作した職人の作家性に富んだものであるのに対し、京友禅では発注者の意図を汲んだ幅広いデザインが生み出される。
分業で成り立つ京手描友禅には、職人をまとめ上げるプロデューサーのような存在が必要となる。それが、染匠(せんしょう)と呼ばれる仕事だ。染匠は、発注者が希望する着物のデザインを起こし、職人の特徴を踏まえた上で各工程の担当を決定するなど、着物が完成するまでの全工程をディレクションする。
1.意匠考案:全体のデザインを決定。
着物メーカーなどとの打ち合わせから創作意図を汲み取り、着物の意匠=デザインを起こす。
2.配色:地色や図柄の配色を決定。
次に、膨大なカラーサンプルが貼られた色見本帳をもとに一色一色吟味して、着物のベースとなる地色や図柄の配色を決める。
構想が決まると、いよいよ染色工程へ。染匠は、各工程に携わる工房や職人をそれぞれの個性を考慮しながら人選し、思い描いた通りの意匠が出来あがるように進めていく。
3.下絵:絵柄の輪郭を描く。
下絵の工程では、まず初めに青い花を咲かせる露草の花からとった青花液で大まかな図柄を薄く描き、全体のバランスを見ながらアウトラインを引いていく。続いて、濃い青花液で繊細な模様を描き出す。
4.糊置:下絵に沿って糊を置く。
次に、下絵の線に沿って糊を置く。下絵をなぞるだけの簡単な作業と思われがちだが、染め上げた時には青花液が流れ落ち、この線が浮かび上がるため、職人の感性が出来上がりに大きく影響する重要な工程となる。
5.地染め:生地を均一に染め上げる。
糊置、模様全体を防染する伏糊(ふせのり)の工程を経て、生地全体を刷毛(はけ)で染め上げる地染めに入る。最も広い面積を染色する地染めでは、風や湿度など微妙な環境の変化を考慮しつつ、ムラなく均一に生地を染め上げていく。
6.挿友禅:模様1つ1つに色を付ける。
続いて、友禅の染色工程でも主体となる色挿しの作業に入る。職人は、約20色の染料を調合して何十種類もの色合いを創り出し、模様1つ1つに刷毛や筆で色を付けていく。