絵柄のおおまかな配色は染匠の指示書で定められているが、たとえば花びら1枚1枚の色調やぼかしを入れるかどうかなど、細部は職人の感性と経験によって塗り進められていく。
7.蒸し・水元:染料を定着、発色させる。余分な染料を洗い流す。
次に、生地を蒸して染料を定着させると共に完全な発色を促し、蒸し上がった生地についている余分な染料や不純物を水で洗い流していく。この蒸しと水元と呼ばれる工程は、地染めと挿友禅の2回行われている。
8.金彩・刺繍:装飾を施す。
模様の細部に、金箔・銀箔をあしらったり、刺繍したりすることで、豪華絢爛な装飾を施していく。
このように複数の職人が担当する複雑な工程を経て、美しい模様が描かれる京手描友禅。この優れた技術を世界に向けて発信し、未来へ継承しようと奮闘するブランドがある。タトラス ジャパン(TATRAS JAPAN)が立ち上げた新ブランド「リヴィール プロジェクト(REVEAL PROJECT)」だ。
「リヴィール プロジェクト」はデビューコレクションで、バックスタイルに京手描友禅を取り入れたボマージャケットを発表。製作にあたっては、着物だけでなく、京友禅の着物地を挟み込んだ工芸硝子も手掛けている木村染匠にコラボレーションを持ち掛けた。
代表取締役・木村信一は、クリエイティブ ディレクター坂尾正中が訪ねてきた時のことをこう振り返る。「京手描友禅の優れた技術が、着物にしか使われていないのはおかしい、とこの道に入った時からずっと想い続けてきた。着物だけでなく、ジャケットでも、世界を驚かせるようなことをしたい。何の迷いもなく、すぐに手を組むことを決めました。」
ジャケットのバックスタイルに配した友禅の意匠は、伊藤若冲の軍鶏(いとうじゃくちゅうのしゃも)、河鍋暁斎の髑髏(かわなべ きょうさいのどくろ)、龍、姫など7種類。そのほとんどが木村染匠のデザインソースからタトラス ジャパンが厳選しデザインを起こしたものだが、着物では滅多に採用されることのない髑髏だけはこのジャケットで初めて挑む図柄となった。また、京友禅は豪華絢爛で鮮やかな色彩が採用されるのが通例だが、今回はダークな色調で仕上げることに。
こうして完成したジャケットは、リヴィール プロジェクト2018-19年秋冬コレクションとしてパリで発表。日本では二条城にて初披露された。製作に携わった木村染匠の社員や職人たちも会場に足を運び、ゲストが向けるまなざしに京手描友禅の新しい可能性を見ることができたと言う。「ヨーロッパで日本の浮世絵が美術大革命を引き起こした”ジャポニズム”のように、日本の伝統技術も世界に影響を与えることができると思っている。海外の人には絶対に真似できない、日本の知恵を結集させたものづくりを、これからも続けていきたい。」木村は最後にそう語ってくれた。