‐「モヒート」を製作しているときの、エピソードを教えてください。
私は何か特別なものを感じていました。ときどきプロジェクトに取り掛かると、「これはいける!」という手ごたえがあります。このシューズをデザインしたときも、橋のデザインと同じ魔法のような感覚がありました。目に見えない問題を見つけ、それを解決するという点です。
製作中そこには一歩一歩、壁がありました。何が問題だったか?……すべてですね(笑)。どんなハードルが私の前に立ちはだかっているかということすら分からなかったのですから。その頃、周囲は口々に言っていました。「そんなのできっこない」って。でも普通のシューズデザイナーと何が違うかって、私には15年以上の建築の技術で、ラスト(靴型)も使わずにビルの建築のようにデザインするところですね。
‐他のシューズと、ジュリアン・ヘイクスの靴との違いは何でしょうか。
普通の靴は、「ラスト」というプラスチックや木製の靴型を元に作られます。でも私にとって、これは足の形ではなく、靴のレザーや素材の形。私の靴は「足裏の形」がデザインのベースで、靴の真ん中部分をなくす、という考えが基になっています。体重は、足指付け根(ボールジョイント部分)と踵だけにかかるから、他の部分に重さを与えない。つまり靴の真ん中はいらないということです。
‐シューズの履き心地へのこだわりを教えてください。
これは最初のころ、私が3Dプリンタで作ったもの。シューズのパーツがそれぞれどのように重なっているか分かりますよ。どうやって履き心地を追求したかというと、何百回も、何百回もフィッティングして、毎回1ミリずつぐらいこれを削っていくんです。いつもマネキンではなく、モデルに履いてもらって。履いてはヤスリで削って、3Dプリンタでスキャンして、PCに入力して…手作業とコンピューターの作業を代わり代わりに行いました。
‐シューズの配色が印象的ですが、カラーについて教えてください。
カラーのアクセントは非常に重要です。シューズの内側と外側の色が同じだったら、立体的な靴の構造をアピールするのが難しいからです。例えば、このブラック×グリーンのシューズ。グリーンのクラッチバックを持ってみたり、ネイルをグリーンやブラックにしてみたりできますよね。靴はカラーバリエーションも豊富だし、異なる質感も多いし、限定エディションもあるし、全種類のシューズがそれぞれキャラクターを持っているんです。
‐「モヒート」には、どんな素材を使っているんですか?
素材のイメージは、バイクのヘルメットに少し似ているかな。外側は強度がある素材を採用し、内側にはパッド素材を使用しました。全部レザーにしたり、スワロフスキーのストーンをつけたり、いろんなことを試したこともありますけどね。