"底のない靴"として大きな話題を呼んでいるジュリアン・ヘイクス(Julian Hakes)のシューズが、2014年春から日本で本格展開される。ロンドンを拠点に数々の受賞歴をもつ建築家ジュリアン・ヘイクスが、ライムピールをイメージして作った靴「モヒート」は、前代未聞のデザインで、多くのブロガーやファッショニスタたちの興味を駆り立てた。
2011年、ロンドンファッションウィークで、行われたアン・ソフィー・バック(ANN-SOFIE BACK)のショーでランウェイデビューしてから、瞬く間にファッション誌やブログに取り上げられ、注目を浴び、現在では、イギリス本国だけでなく、ドイツ、アメリカ、香港、日本で展開されている。
モヒートシューズの度胆を抜く彫刻的なフォルム、ソールのないデザインは、これまでのシューズの概念を打ち壊した。今回は日本の本格展開に向け、2013年12月に来日したデザイナー、ジュリアン・ヘイクスに、誰も知らない独自のクリエーションについて話を聞いた。
ジュリアン・ヘイクスが、「ハイヒールの土踏まずの箇所には、本来ソールは必要ないのではないだろうか」という疑問も持ったのは、2006年のこと。画期的なシューズ「モヒート」はジュリアンの1枚のスケッチから生まれたという。
‐「モヒート」のデザインが、閃いたときの話を教えてください。
アイディアが生まれたばかりのときは、これからどうなるかなんて、全く分かりませんでした(笑)。冒険の始まり、という感じでしたね。
以前から心の中で、シューズの進化は終わってしまったという感覚がずっとありました。中でも、ハイヒールは長い歴史を持つもの。私にとって「伝統」の最も大切であることは、変化していくということ。今日ある「モダン」は明日の歴史になるのです。ちょっと哲学みたいですね(笑)。今私たちがデザインしているシューズは明日の「歴史」になるのだと考えています。
もし誰かが私のところへ「シューズを作ってほしい」と言いに来ても、私にはシューズのデザイン経験がないので、普通のハイヒールは作れません。でも私だったら、「歩きたい」「背が高くなりたい」「脚を長くみせたい」と言われたら、素材、立体デザイン、コンピューター、製品、生産といったものすべて、最新のものを見てからシューズのデザインに取り組みます。そして実際にそうしました。それが私の発想の原点です。
(そういうとジュリアンはペンを取り出し、足の裏の絵を描き始めた)
普通の足の裏ってこんな感じですよね。でもヒールを足の裏だと考えたら、踵部分の面積は小さな点になります。
それで私は考えました。どうやったらつま先部分をしっかり保護できるか、そして靴の真ん中部分は必要なのか、ということです。
‐靴のデザインはシンプルな発想に基づいているんですね。
そうですね。橋のエンジニアみたいにして考えてみたのです。
あと靴の幅もとても大切で、自然の足の形にしました。私はシューズデザインを学んだことがありません。だからこれまでのシューズデザインのルールに囚われないところがあります。
‐ところで建築家としては、どのような仕事をされていたのですか?
私は橋の専門家で、自分の会社で10年くらい、世界中の橋をデザインしていました。橋というのは、彫刻みたいなもの。それでいて詩のように空想的な存在なんです。橋をデザインするということは、目には見えないものを見つけ、2つの場所をつなげるということ。実際に橋をつなげてみないと、どんなデザインになるかは分からない。どんな形にだってすることができる。実際に素材を使って橋を作りはじめると、今まで見えなかったものが現実になる。それは冒険であり、 魔法のようなものですね。始めてみなければ問題が何かも分かりません。それはシューズのデザインとまったく一緒です。