セリーヌ(CELINE)の2019年秋冬メンズコレクションが、パリファッションウィークの最終日、2019年1月20日(日)に発表された。パリ・メンズ・ファッションウィークでの発表は初めてのことだ。
ロックの精神を自身の創作のベースに敷いてきたエディ・スリマン。エディの手に掛かるワードローブには、いつだって独自の旋律が確立されていた。2019年秋冬パリ・メンズ・ファッションウィークの最終日、フィナーレを飾ったショーのなかでも、やはりエディのメロディーが流れていた。
とりわけ、エディにとってイギリスの音楽は特別だ。ポスト・パンクをふくむ1970~80年代に一世を風靡したニュー・ウェイヴの潮流は、多くの刺激を与えた。「ロンドン・ダイアリー」と題した今季は、テーラードをベースに、細いタイ、レザージャケット、そして刺激的なアニマルモチーフなどエディの“トレードマーク”的存在が引き続き登場している。
しかしながら、感じられるのは、前回よりもトラッドかつクラシックに、そしてエレガントにシフトしたようなムード。まず、今までと異なるのは、スキニーパンツを控えめにしたこと。ワイドなシルエットのパンツが印象的で、ツータックやテーパードのクロップド丈など、エディにしては珍しいシルエットが登場している。ダブルボタンのジャケットは、ボックスシルエットが大半を占め、コートの肩はいつになく強調されている。緩やかなラインのレザージャケットは、クラシックなチェック柄のマフラーをスタイリングすることで柔かさを促した。
素材も刺激ばかりじゃなく、ツイードコートやカシミアコートなど柔らかなテクスチャー。セリーヌの歴史を踏襲した品格をそのまま受け継いている。そして、ダークトーンのクラシックチェックやストライプ柄は、英国トラッドなファッションを今につないでいる証のようだ。今までならレザージャケットに煌びやかなインナーを合わせていたであろうエディが、今回はアーガイル柄のモヘアニットをあわせている。
ショーの最後には、伝説的なミュージシャン、ジェームス・チャンス(JAMES CHANCE)が生演奏を披露した。彼は、ニュー・ウェイヴの傍らニューヨークで生まれた“ノー・ウェイヴ”を飛躍させたミュージシャンのひとり。ジャズやファンクのリズムをパンク・ロックで再解釈する自由な音楽は、エディの憧れでもあったという。
自分らしさで音楽シーンを切り開いたジェームスを今回のショーに登場させたことは、きっとエディ自身にとっても大きな意味を成している。登場するたび自身のクリエーションを貫き、そのメゾンに、ひいてはファッションシーンに新しい風を吹き込むエディのファッションは、ロックミュージックのように国境と時代を超えていく。エディの新たな“ウェイヴ”はまだはじまったばかりだ。