ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)の2020-21年秋冬メンズコレクションを紹介。
アーティスティック・ディレクターのヴァージル・アブローが今季試みたのは、人々とスーツの関係性の進化と、伝統的なドレスコードの再構成だ。慣習的に着用しているテーラードスーツを脱構築し、再定義するためにヴァージル・アブローが選択したのは“シュールレアリスム”。現実を超えた概念こそが既存の常識・慣習をも超え、視野を拡張していく。
一面青空を描いた会場に、大きな糸や針、はさみなどのオブジェを装飾したセットからも“超現実”のクリエーションの可能性を見て取れる。
象徴的なのは、パーツを“再構成”したウェアの数々。オーセンティックなテーラードのセットアップやチェスターコートにパズルのような切り込みを入れ、繋ぎ合わせたルックは、端正なシルエットと大胆な切り込みが両極端なコントラストを描く。また、シャツのパーツを切り離して再構成したパッチワークシャツや、ネクタイを締めたシャツをそのままコラージュしたロングジャケットなど、解体→再定義のプロセスを直接的に表現したピースも登場。アシンメトリーなベージュのコートは合わせの部分が大きくずれ、中に着たシャツの襟も二重になっている。
また、ダッフルバッグやショルダーバッグも一見クラシカルなデザインだが実は片方曲がっていたリ、内側に歪むようなフォルムになっていたり。本来オーセンティックなアイテムが予想外に歪み、変形することで、現実が拡張したような感覚を覚える。
通常はエレガントな文脈で用いられることの多いフリルも、ヴァージル・アブローの手にかかれば既存の慣習を抽象化し解体させるツールになる。テーラードジャケットの袖や襟にあしらわれたフリルはランダムなフォルムで躍動感を生み出し、ノイジーなエッセンスをプラス。クラシカルなストライプシャツは前立て部分から身頃や肩に向かってうねるようにフリルを配し、シャツのシルエットはそのままに歪みを作り出している。
ショー終盤には、青空のプリントを施したピースが登場。テーラードジャケットやシャツ、ネクタイ、パンツ、ニット、コートには青空のグラフィックを全面にあしらい、ホワイトからブルーへとグラデーションを描くバッグやトランクケースには、雲のようなLVロゴを配した。スーツやウェア、バッグを無限に広がる雲、青空と同化させることで、より自由な創造の可能性を示唆しているかのようだ。