2018年にデビューしたばかりの注目の女優・古川琴音。短編映画『春』で主演を務め、映画『十二人の死にたい子どもたち』でゴスロリ少女役、『街の上で』でヒロインの1人を好演。
映画のみならず、主人公夫婦の娘役を演じたNHK連続テレビ小説『エール』をはじめ、ドラマ『コントが始まる』、菅田将暉「虹」のMVなど、活躍の場を広げている。
そんな期待の新星・古川琴音が『イントゥ・ザ・ウッズ』で、ミュージカルに初挑戦。ブロードウェイ・ミュージカルの巨匠、スティーヴン・ソンドハイムが作詞・作曲を手掛けた同作品は、『赤ずきん』『シンデレラ』『ジャックと豆の木』『塔の上のラプンツェル』といった誰もが知る有名童話を題材に、“おとぎ話の裏側”を描いた人気作品だ。
並々ならぬ努力で本作のオーディションに挑んだという古川が演じるのは、誰もが知るプリンセス“シンデレラ”。本記事ではそんな古川にインタビューを実施し、『イントゥ・ザ・ウッズ』への意気込みから、舞台にかける情熱、彼女の原点となるエピソードまで、たっぷりと話を伺った。
■ 『イントゥ・ザ・ウッズ』に出たいと思ったきっかけは何ですか?
オーディションのお話をいただいてから海外で上演された『イントゥ・ザ・ウッズ』 の映像を見たのですが、とてもユーモアのある作品で。ぜひその世界に入りたいと思いました。
具体的には、曲はマーチ調で楽しげなのに、劇中では教訓めいたものが多く語られていて。しかも昔から馴染みのある童話のキャラクターたちが、空想ではなく現実を語るということが皮肉で面白いなと感じたんです。
■そんなユニークなミュージカルのオーディションに向けて、防音設備のある部屋に引っ越したとか?!
はい(笑)。ミュージカルのオーディションに呼ばれると思っていなかったので、その機会をいただけたこと自体がビッグチャンスだと考えましたし、自分が出来ることを全てやった上で判断して欲しいと思ったので、オーディションの話をいただいた日から物件を探し始めて。そこからトントン拍子で不動産屋さんとも話が進んだので、悔いの残らないくらい練習が出来そうな防音設備のある部屋に引っ越しました。
■役を得る前に、引っ越しするなんて凄い行動力ですね。
ここまで私を突き動かしたのは、この作品に挑戦したい気持ちももちろんありましたが、いつかミュージカルの世界に挑戦してみたいという気持ちが凄く強かったんです。たとえ今回のオーディションで役を貰えなかったとしても、「あの子、惜しかったんだよね」という記憶は周りの人がちゃんと覚えていてくださると思うので、自分には「やる」という選択肢しかありませんでした。
■オーディションを受けられた結果、見事シンデレラ役に抜擢されました。最初からシンデレラ役を希望していたのでしょうか。
最初は、赤ずきん役をイメージしていました。でもそこに大きな意味はなく、赤ずきんという役が当時の自分に合うキャラクターだと思っていたのと、赤ずきんの服装が好きだった(笑)。あと、赤ずきんが歌うテーマ曲が全体のテーマ曲にもなっていて、大事な役柄だなと思っていました。
けれど実際にシンデレラ役に選ばれてからは、自分の想像とは全く違うプリンセスになりそうなのですごくワクワクしています。何故なら『イントゥ・ザ・ウッズ』のベースとなる童話の原作って、私たちが馴染んできた作品とはひと味違う、もっとシビアな物語なので、良い意味で期待を裏切るシンデレラが生まれそうというか。
実際、演出家の熊林さんからいただいた資料の中には、“『シンデレラ』は、少女がアイデンティティを確立するまでの物語”というワードがあったので、私も“したたかで人間らしいシンデレラ”を演じられたと思います。
■“したたかなシンデレラ”とは面白いですね。
ただ心配な点としては、シンデレラを取り巻く義姉役や義母役に、元宝塚の素晴らしいキャストの方たちが集結しているので、現時点ではそのパワフルな演技に私が圧倒されていること…。この舞台では、シンデレラファミリーに対抗できる強いシンデレラを演じていきたいので、奮闘しています!
■初のミュージカル作品となりますが、元々ミュージカルに対する憧れはありましたか?
はい。『雨に唄えば』など好きなミュージカル映画は沢山ありますし、音楽を通したお芝居と通常のお芝居では伝わるものに違いがあって面白いなと思っていました。
■歌の手応えはいかがですか。
正直苦戦しています…。『イントゥ・ザ・ウッズ』の音楽はとても複雑で、喋っているのか歌っているのか分からない、会話と歌の境界線にあるようなメロディばかり。しかもそれを自分1人で歌うのではなく、色んな人と掛け合いをしながら森の中を彷徨うように物語を紡いでいくので、かなり高度な技術が求められると思っています。
実際に熊林さんのお話を聞いたり歌詞を確認したりする中で、沢山の発見もあり、私自身表現したいことも増えていくのですが、それを歌に乗せて表現することも非常に難しい…今はやることが目の前にありすぎるという状態です(笑)。
■発見とは具体的に?
稽古が始まるまでは、童話を表面的にしか捉えていなかったのですが、その裏の裏まで考えるようになれたというか。
たとえば、熊林さんがこの物語を作るにあたって、 “夢”を1つのモチーフにしたいとおっしゃっているのですが、夢って人間の深層心理を表すものが沢山出てくる場所なんですよね。私は疲れを感じると〈歯が抜ける夢〉を見ることがあるのですが、それは私だけが見る夢ではなくて、悩んでいたり追い込まれた状況の時に多くの方が見るものだそうです。
夢以外にも人間には無自覚なところに隠されたモチーフが沢山あって、そういったものが散りばめられているのが童話や昔話であり、さらにそれをもう少し表に出したものが『イントゥ・ザ・ウッズ』だと思っていて。この深みを観客の方に伝えるために、私の表現力をもっと磨いていきたいです。
■舞台ならではの学びがあったんですね。
はい。舞台は、2019年に上演された『世界は一人』以来の出演になりますが、演出家の思考によって、自分1人では気付かない言葉の背景や重みを深いところまで探れるところが、やはり凄く好きだなって改めて感じました。
また、映像作品は自分が作ってきたものを現場で出して、そこから調整していきますが、作品に関わる方々と足並みを揃えて“0から1”を作ることが出来るのも舞台ならではだと思うので、これからも挑戦したいです。
ラストは、古川琴音の女優の原点となる学生時代までプレイバック。演劇部に所属していた当時のエピソードから、女優への道を選んだきっかけ、今後の展望について話を伺った。
■演劇部に所属したきっかけは?
元々バレエを習っていたこともあり、ステージに立つことが好きだったので、中学・高校・大学と演劇部に所属しました。ただ、演劇が好きなだけで続けたわけではなく、仲間と一緒に活動することが楽しくて、気が付いたらずっと続けていたという感じです。
部活には演技の上手な先輩・同期・後輩がたくさんいましたし、私は演者に向いていないと思っていました。
■女優になろうと心に決めたのはいつですか?
大学のサークル活動を終え、就職を考えるタイミングです。大学では英語劇のサークルに所属していたのですが、とにかくストイックなサークルで(笑)。日本語でやっても難しい作品を英語で演じなければならなかったので、毎日必死で、気が付いた時には就活の時期になっていました。
自分が演者に向いていないと思う半面、褒めてもらえることも演技しかありませんでしたし、映像のお芝居にチャレンジしてみたい気持ちもあったので、将来についてじっくり考えることもなく、今の事務所に応募しました。
■そこから順調に活躍の場を広げていますが、演技を始めてから10年以上経過しています。続けるモチベーションは何なのでしょうか。
もっと上手くなりたいという気持ちと、人間の感情に対する興味が原動力になっている気がします。生きていると、〈説明できない気持ち〉や〈説明できない行動〉があると思うのですが、その時の心情をもっと理解したいと思っています。
■そんな古川さんが演技をする上で大切にしていることは何ですか。
どんな役を演じる時も共通して考えるのは、“誠実に演じること”です。役に共感してくれる人がいるのは、役の境遇や感情をリアルに生きている人がいるからだと思うので、どんな役を演じることがあっても変に構えることなく、役を傷つけないように向き合っていきたい。演じる役は殆どが架空のキャラクターですが、生きている人間と同じだと思って演じています。
■それではこれから女優業とどのように向き合っていきたいですか。
今までは台本を読んで、自分が共感できるところや自分の感情が乗るところを拠り所にしていたのですが、今後はもっと広い視野で物語を捉えられるようになりたいです。
まだそれをどうやってやればいいのか分からないので模索中ではありますが、演じる役を効果的に見せつつ、ストーリーのメッセージをちゃんと伝えるために、もっと考えながら役作りが出来るようにしていきたいと思っています。
【公演情報】
ミュージカル『INTO THE WOODS -イントゥ・ザ・ウッズ-』
作詞・作曲:スティーヴン・ソンドハイム
脚本:ジェームズ・ラパイン
演出:熊林弘高
出演:望海風斗、古川琴音、羽野晶紀、福士誠治、瀧内公美、渡辺大知 ほか
<東京公演>
上演期間:2022年1月11日(火)~1月31日(月)
※1月11(火)~12日(水)はプレビュー公演
会場:日生劇場
<大阪公演>
上演期間:2月6日(日)~2月13日(日)
会場:梅田芸術劇場メインホール