エルメス(HERMÈS)の2022-23年秋冬ウィメンズコレクションは、ネオパリジャンとネオロマンティックをイメージし、年間テーマとして掲げている“ライトネス”とリンクさせた。プレタポルテが普及し、皆がファッションを一層楽しむようになった60年代の街を行くパリジャンたちのスタイル、あるいはダンサーたちが身に纏うしなやかな装いに着想を得て、エルメスの世界が築かれていく。
秋冬らしからぬ軽やかなルックは、どこか愛らしさも秘めたダンサーとパリジェンヌたちの装いをそのまま表現するかのよう。ドレスやプルオーバーのボディコンシャスなシルエットはダンサーたちのレオタードを彷彿とさせ、そこには、自由な彼女たちのマインドを宿すかの如くラッフルが柔らかに揺れている。体にフィットするしなやかなレザーのルックは、凛然としたモダンな女性像を浮き彫りにし、優しいロマンティックにひとつの芯を通す。
会場ともリンクするストライプのパターンは、フローレンス・マンリク(Florence Manlik)が手掛けたエルメスのスカーフ《トレゾール・ドゥ・メドール》の絵柄からインスピレーションを受けたもの。身体にフィットするシアーなシルクニットは、身に着け、肌にレイヤードすることにより、ストライプが存在感を増している。同じくリンクするモチーフとして、小さな“鈴”が用いられているのも印象的で、ニットの首元や軽やかなコットンワンピースのドローストリング上に、繊細ながらも確かな存在感を放っている。
たおやかなテクスチャーや繊細なラッフルなどが築く空想的なフェミニニティがある一方、メゾンを象徴する乗馬の要素は今季も健在だ。ストライプのパターンは、《トレゾール・ドゥ・メドール》のインスピレーションだけでなく、馬用のブランケット(=ロカバール)から着想を得たものがあり、上品で深みのあるローデングリーンとゴビグリーンが織りなすニットがその好例。また、ウエストダーツにクラフト感溢れるステッチを施したコートは、美しいフォルムを築き、優美さを加味しながら騎手のように凛とした佇まいを叶えた。
最後に上質なレザーを語らずして、エルメスのコレクションは完結できない。肌が透けるようなシアーなファブリックに寄り添う滑らかなレザーは、ロマンティックの新しいカタチを完成させる。重さを全く感じさせないレザーはまさに第二の肌だ。一方で、レザーで縁取られたウールやカシミヤのコート、あるいはボリュームのあるムートンコートが、メゾンのラグジュアリーな伝統を継承している。