ヨシオクボ(yoshiokubo)の2023年春夏コレクションが、2022年8月29日(月)、東京・渋谷にて発表された。なお、本ショーは、日本のファッションブランドを支援する楽天によるプロジェクト「by R(バイアール)」のサポートによるものだ。
闇夜にゆらりと遊ぶ火の玉──今季のヨシオクボのテーマ「HITODAMA」である。死者の肉体から離れた、不可視の対象たる魂を衣服という物質へと具現化するこのコレクションが、身体のシルエットの拡張を核としていることは、すでに素描した。いやもっと、半透明のレイヤーが身体を二重化している、とすらいえる。
コレクション全体の基調となるのは、スポーティなテイストだ。ブルゾンやポンチョなど、アウターはきわめてオーバーなサイズ、ボリューミーなスリーブで仕上げられ、身体のラインから乖離したシルエットを生みだす。そして素材が半透明であるがゆえ、つねにその下のレイヤーを、あるいは身体のシルエットを透かして見せる。身体に支えられ、しかしその動きとは必ずしも呼応せず、素材の弾力や柔らかなゆらめきでもって、むしろ半ば独立したシルエットを示す。身体の動きと衣服のフォルムとが互いに遅延し、差異を生みだす。冒頭に記した「二重化」とはこの謂いにほかならない。
身体と衣服、それぞれのシルエットが齟齬をきたす最たる例が、内側に湾曲したバルーンを忍ばせたアウターなどであろう。スリーブには本来通るべき腕は通さず、そこでは身体を離れた造形性が追求されている。あるいは、フリルにフリルを重ねたドレス。身体から乖離した衣服といえば、たとえば19世紀ヨーロッパのクリノリンやバッスルスタイルのドレスが想起される。それらが重厚なスカートの圧倒的な不透明性でもってその下にあるはずの脚を隠蔽していたのならば、ヨシオクボの半透明性においては絶えず身体を透けて見せ、身体と衣服のあいだの緊張感を保持している。
身体の二重化ほどラディカルではなくとも、アウターばかりでなくシャツやパンツなどに用いられた半透明素材は、全体として軽快さとレイヤリングをもたらしている。また、スポーティなブルゾンをはじめ、オーバーなサイズで丈感を長めに設定したアイテムを多用することで、レイヤードにより縦のラインを意識したスタイルを展開している。
カラーは、ブラックやベージュといったベーシックカラーを基調としつつ、レッド、ブルー、オレンジ、ネオンイエローなど、ヴィヴィッドな彩りも数多く取り入れた。鮮やかな色彩を取り入れアクティブなムードを高めつつも、それらが過度に前へは出ないのは、シアーな素材という半透明性のなせるところだろう。