マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)の2014-15年秋冬メンズコレクションは、どこか音とタバコの匂いがする。今回のインスピレーション源は、アメリカの俳優・監督のジャック・ニコルソンと、イギリスのロックミュージシャンのブライアン・フェリー。彼らが1970年代初頭に通っていたラウンジ(社交場)に思いを馳せ、当時のナチュラルでヒッピーな雰囲気をラグジュアリーな素材で表現している。
まず目をつくのが、スーツ・ジャケットのバリエーションの多彩さ。マークには珍しくウエストがシェイプされた着丈が長めの“ザ・70's”的なネイビーのスーツや、ブルゾンとジャケットが融合したようなスクエアカットのベージュのスーツ、ベルベット素材のタキシードなど、様々なスタイルを提案している。共通するのは、袖をまくって裏地を見せることでこなれた雰囲気を演出していること。パンツのシルエットも様々で、タイトなシルエットは8部丈のダブルで、ゆったりしたシルエットは2クッションで仕上げている。
ラウンジに直結する素材として、マークが多用したのはベルベット。今回のコレクションを象徴するモチーフであるピーコック柄のスーツやタキシードなどに落とし込んでいる。1970年代の日本の社交場を想像すると“ワインレッドのベルベットの絨毯”のイメージが浮かぶが、きっと欧米の社交場もそんな雰囲気だったのだろう。起毛感のあるアンゴラ、モヘヤ、ムートンなど高級感のある素材も豊富で、アメリカン・ニューシネマの中から飛び出してきたようなファーの襟がついたダブルブレストのコートや、ムートンのロング丈のコートなどを提案。どれだけ高級な素材を使っても、キザになりすぎずどこか抜け感があるのはマークの真骨頂と言えよう。
Text by Kaijiro Masuda(FASHION JOURNALIST)