ファッションとアートの融合は今に始まったことではないが、2014年秋冬のラフシモンズ(RAF SIMONS)のランウェイショーは、洋服とアートが並列に扱われたショーとして長く語り継がれることになるだろう。
真っ白なインビテーションには、黒字で同じサイズの同じフォントでこう書かれている。「RAF SIMONS AND STERLING RUBY」。今回のステージは、ラフシモンズの洋服をキャンバスに、ロサンゼルスを拠点に活動する現代美術家、スターリング・ルビーの作品を紹介する試みなのだ。
最初に目に飛び込んできたのは、斜めに様々な布や写真を貼り付けるアッサンブラージュ(立体的なものを寄せ集め貼り付けること)の手法だ。これはスターリングが2011年に発表した作品そのもので、自身の過去の作品を見直し、再構築する過程で生まれたものだという。今回はおそらくラフのアトリエにある過去の残布やモチーフから2人で貼り付けるものを選び、感性の赴くままにレイアウトしたのだろう。
コートやセーターに縦横無尽に走る直線の組み合わせの妙は、ファッションとアートの幸せなマリアージュを感じずにはいられない。スターリングがこの作品で自身の過去を見つめ直したように、きっとラフもこの作品に出会ってから、これまでの道程を深く振り返ったのだと感じる。単なる長方形の布だけではなく、失ってしまった過去を必至に取り戻そうともがく手のモチーフ、父親への想い(FATHERSの文字と写真が散見する)などがちりばめられており、過去への未練が感じられなくもないが、個人的には過去を懐かしみつつも前へ進んで行くというラフの強い意志が感じられた。
ブリーチによる“即興の美”も2人の共作なのだろう。パンツの右半身は本来の色を残して、左半身はハードにブリーチしたりして、思う存分偶然から生まれる柄を楽しんでいるように見える。コートの胸やヘム、袖口にマルチボーダーを配した作品も目立つ。
スターリングのアートから意識を外して、ファッションとして子細を観察してみよう。アイテムで目立つのは、MA-1、N3Bなどをベースにしたミリタリーブルゾン、ピーコート、たっぷりした身幅のコクーンシルエットのステンカラーコート、スナップボタンで留めるモッズコート、手編み風のローゲージセーター、スキニーパンツなど。靴は1択で、つま先に鉄板が入った厳冬期用の作業ブーツのみ。全体的には、パンクを始めとしたロンドンのユースカルチャーの匂いが色濃く感じられる瑞々しいコレクションだった。
最後の挨拶でスターリングと一緒にランウェイに登場したラフは、さすがにおじさんになっていた。でも、2人のはにかんだ笑顔はまるで卒業制作を作り終えた学生のようだった。きっと楽しんで作ったのだと思う。
Text by Kaijiro Masuda(FASHION JOURNALIST)