風変わりな両親の間に生まれたアメリは、父の誤解から学校に通えず、空想の世界で一人遊びする子ども時代を過ごした。大人になった今はパリの下町、モンマルトルで一人暮らししている。恋人や同世代の友達はいなくても、カフェ「ドゥ・ムーラン」の個性的な同僚や常連客に囲まれて、居心地がよい毎日を過ごしてきた。
1997年8月30日、深夜。ダイアナ元妃がパリ市内で事故死したニュースに気を取られ、アメリは香水瓶の蓋を落とす。コロコロと転がる蓋は洗面所の壁にぶつかり、壁の裏に隠されていた宝箱が40年振りに現れた。誰かの写真、おもちゃのレースカー、自転車の模型などがきれいに収められている。宝箱を持ち主に届けるサプライズを思いつき、アメリは翌朝からアパルトマンの管理人のマドレーヌや1階の食料品店に声を掛けたり、当時を知る人を訪ねて郊外へ出掛けたりと、持ち主捜しの冒険に夢中になる。ところが、持ち主候補は全員が人違い。肩を落とすアメリに、古株の住民、レイモンが手を差し伸べる。持病のせいで外出できず、ルノワールの模写に一生を捧げる頑固な老人は、どういうわけだか近所の事情通で、アメリのたくらみもお見通し。持ち主の個人情報をあっさりと教えてくれた。
レイモンのサポートで宝箱を返す極秘ミッションは大成功!持ち主の元少年が奇跡に驚喜する姿は、事の顛末を素知らぬ顔で監視するアメリの心を動かした。初めて知る温かな感情は、アメリはが湧き上がる。得意のいたずらで人々を幸せにするお手伝いをしようと、アメリは早速、お節介プロジェクトを立ち上げる。最初のターゲットは、母の死後、すべてに無関心になった父だ。実家の庭から父が大切にするドワーフ人形を盗み出した帰り道、アメリは以前、地下鉄ですれ違った男性を見かける。あわてて追いかけたが、モペッドに乗った彼は何かを落として走り去った。落とし物は、失敗した証明写真が大量に貼られた謎だらけでクリエイティブなアルバム。アメリはますます男性に興味をひかれていった。
お節介プロジェクトのおかげで周囲が少しずつ明るく幸せになる一方で、アメリは初めての恋に臆病になっていた。アルバム探しの張り紙を見て持ち主のニノに連絡してみたものの、本人と顔を合わせる勇気はなく、いたずらを仕掛けては息を潜めるばかり。ニノは仕掛人不明の謎解きを楽しみながら、少しずつアメリへの距離を縮めてくる。恋を知らないアメリは、幸せへの一歩を踏み出せない。寂しそうな背中を押したのは、意外な人だった。
映画『アメリ』は、『デリカテッセン』『ロスト・チャイルド』『エイリアン4』などを手掛けてきたジャン=ピエール・ジュネが監督を務めたフランス映画。それまでのアーティスティックでダークな世界観から一転、「人々を幸せにする映画を撮りたい」と方向転換した作品だ。世界各地でロングラン・ヒットとなり、2002年にはアカデミー賞で外国語映画賞、美術商など5部門に、ゴールデングローブ賞で最優秀外国語映画賞にノミネートを果たした。主演はオドレイ・トトゥ。