キディル(KIDILL)の2024年秋冬コレクションが、2024年1月16日(火)、フランスのパリにて発表された。
「WHATEVER HAPPENED TO PUNK!」というテーマを掲げた今季のキディルは、ブランドのエッセンスのひとつであるパンクを再考することを主眼としたと言ってよい。その背景には、2023年8月、セックス・ピストルズのジャケットなどを出がけてきたイギリス人アーティスト、ジェイミー・リードの逝去があった。2020年秋冬シーズンにコラボレートをして以来、リードと親交を保ってきたキディルのデザイナー末安弘明は、大きな喪失感を覚えたという。
空虚に似た感覚のなか、パンクの本質をいかに今に生かし続けるか。末安にとって、それはある種の緊張を孕む「様式」として、同時代的にパンクの精神を呼び起こすことであったという。そもそもパンク自体、それ以前のロックの高度化に対するアマチュアリズムを起点にする以上、高尚な様式に対する反抗、簡潔な力強さを基とする。しかし、様式化されるからこそ、それぞれの時代の精神から息吹を吹き込まれてゆくこととなる。パンクをつねに同時代として生き直す、その危うい緊張が、今季のキディルには通底している。
両義性を孕むパンクの緊張感は、複数の要素をモンタージュのようにして組み合わせたアイテムの数々に見て取ることができる。それはたとえば、タータンチェックのクラシカルさを、ミリタリー調やカジュアルテイストのアイテムで屈折させること。MA-1はショルダーをチェック柄で切り替え、ベストは異なるテイストでアシンメトリックに仕上げ、あるいはパンツにパッチワークを施すなど、異なるテイストの力強い衝突が随所に表現されている。
鮮烈なグラフィックも、大きな特徴だ。端正なテーラードジャケットやプルオーバーには、ポップ・アートを思わせる図案化された花柄をヴィヴィッドに表現。スカートには、写実的で艶やかな花柄をのせている。
パンクのアグレッシヴな態度は、ディテールにも表れている。パンクを代表するアイテムともいえるボンテージパンツは、その一例だ。また、オーバーサイズのニットにはほつれ加工を施し、デニムパンツにはハードなダメージ加工やヴィンテージ加工を施すなど、精緻な仕事に基づきつつも荒々しい表情を醸しだした。