ペイデフェ(pays des fées)の2024-25年秋冬ウィメンズコレクションが、2024年3月11日(月)に発表された。
今季のテーマは「circle in square」。デザイナーの朝藤りむは、未だ成熟し切っていない身体のなかでうごめく自我の葛藤、つまりは、人間の誰しもが第二次性徴期に抱く複雑な想いをこの“四角の中の丸”という幾何学的なモチーフに込めた。何者にも干渉されず、何者にも汚されない。そう強く望めば望むほど、ざわめく身体と心の輪郭に戸惑ったあの頃の感覚を、ファッションのなかで記号的に蘇らせようとしたのだ。
また朝藤は今季のコレクションにあたり、詩人・北園克衛の作風から大きなインスピレーションを受けている。北園は、言葉の意味を排除して、図形や記号などのモチーフから詩を造形する「コンクリート・ポエトリ」で知られるモダニズム系譜の詩人。晩年に近づく1966年には、新聞の切り抜きやクリップなど、身近にある素材を組み合わせて撮影した写真から視覚的に詩を造る「プラスティック・ポエム」を提唱した。
今季のペイデフェは、身体に纏う「プラスティック・ポエム」を体現しており、思春期に望んだ“無機質でありたいと願う自分”を、繋ぎ合わせたファブリックによって包み込んでいる。
印象的だったのは、“手”のモチーフ。四角い枠線のなか、円形の何かに触れようとする手のデザインのほか、大きな水玉模様の中にも、指で何かをつまもうとする手の様子が描かれていた。このモチーフを取り入れたのは、今季のデザインに取り掛かっていた朝藤が「ふとした時に自分の手をよく見ていた」ことが起因しているという。自身の一部を見つめてしまうという、朝藤の個人的な気づきは、思春期特有の内省的な姿勢にも重なっているのではないだろうか。
シルエットは、これまでのペイデフェで多く見られた曲線的かつロマンティックなフォルムをあえて抑えるかのようなデザインが散見された。ハイウエストで切り返されたワンピースは、下半身のラインに添うようにして流れ落ち、過度な主張を感じさせない。ダブルブレストコートも直線的なテーラリングによって構成されており、何者でもない本質的な自分自身に寄り添うシルエットとなっている。
ダブルブレストのケープコートでは、サイドを大きく切り裂いた大胆なディテールが目を惹いた。加えてコートの背面には、中心一直線にボタンを配し、まるで前身頃のような印象に。“後ろ前”の概念を取り払ったかのような独創的なデザインとして昇華させていた。また、今季のコレクションでは、モデルのほとんどが顔を布で覆い、表情を隠して登場したのも特徴的。「無機質な個体でありたい」と望む意志をひしひしと感じさせる。
カラーパレットは、ブランドとしては珍しく、グレーやネイビー、ホワイトなどのベーシックカラーが中心。時折ブルーやライトブルーのテキスタイルが、コートの裏地、クロップド丈のトップスやショートパンツなどに差し込まれていたが、全体として落ち着いたトーンにまとめられていた。