ポール・スミス(Paul Smith)の2025年春夏メンズコレクションが発表された。
ポール・スミスが今季の着想源としたのが、1960年代だ。デザイナー・ポールの足跡を思い起こすと、自らのブティックをオープンするのが1970年、自身の名前を冠したブランドを始めるのが1976年のこと。1960年代とは、ファッションの仕事に向かいつつあった時期にあたるといえる。
1960年代のロンドンというと、伝統的な価値観に対抗するカウンターカルチャーを背景に、若者文化が花開いた地にほかならない。この時期、ポールはロンドン・ソーホーのイタリアンカフェに通っていたという。ソーホーは、若者文化の活気にあふれるスポットであり、ポールが通っていたような夜間営業のカフェには、ミュージシャンやアーティスト、デザイナーといったボヘミアンな人々が集っていたのであった。
ポール・スミスが1960年代を題材にするということは、クラシックとカウンターカルチャーがせめぎあう、ロンドンのこのムードを反映することにほかならない。ポール・スミスの根幹にあり、伝統を体現する装いだといえるテーラリングは、ハウンドトゥースやグレンチェックといったクラシカルなファブリックを採用しつつ、仕立ては軽やか。ショールカラーには植物やペイズリーの刺繍を施し、あるいは緩く結んだタイを合わせるなど、ほどよい抜け感を吹き込んでいる。
一方、ワークテイストをはじめとするカジュアルなウェアは、色彩感や柄、ディテールを凝らすことでアーティスティックな佇まいにまとめ、そこから粗野な雰囲気を払拭している。たとえば、Leeとのコラボレーションに目を向ければ、Lee(リー)ならではのワークウェアをベースとしつつも、デニムジャケットやデニムパンツにはストライプを施し、パンツにはトーン・オン・トーンで花柄のジャカードを採用するなど、華やかなムードに昇華させているといえる。
そればかりではない。オーバーサイズのトレンチコートには、ポール・スミスを象徴するマルチカラーのストライプに着想を得た、パステルカラーのオンブレチェックをのせて。軽やかなシャツジャケット、ショールカラージャケットや側章入りのパンツにはペイズリーが踊る。ロングコートやシャツ、ワークジャケットはペールトーンでまとめるなど、ベーシックなアイテムのシックさを保ちつつ、絶妙な遊び心を効かせた。