プラダ(PRADA)の2025年春夏メンズコレクションが、2024年6月16日(日)、イタリアのミラノにて発表された。テーマは「CLOSER」。
極度に切り詰められた衣服の造形。そんな今季のプラダにアプローチするために補助線を引くならば、Tシャツにその絵画作品がプリントされているベルナール・ビュフェを挙げることができるだろう。20世紀後半のフランスを代表する具象画家として知られるビュフェは、美術の主流が抽象絵画であった当時、あくまで具象絵画を手がけ続けた。
ビュフェがデビューしたのは、1940年代後半のことである。第二次世界大戦の直後にあって、黒く鋭い輪郭線、モノトーンに近い色遣い、あるいは引き伸ばされた人物像などによって特徴付けられるビュフェの作品は、戦後の荒廃した状況を反映するものとして注目を集めたた。その表現は、空虚の中の実存を描きだすものであったということもできるかもしれない。
この、鋭く研ぎ澄まされた線が描きだす人間像が、今季のプラダの核にあるように思える。ジャケット、シャツ、ステンカラーコート、プルオーバーニット、なめらかなウールやヘリンボーンのスラックスと、メンズウェアの極めてベーシックな要素を基調に、ディテールを極度に抑え、フォルムも極度に切り詰めることで、衣服と身体の存在の関係を、ひりひりするような緊張でもって際立てているといえるだろう。
たとえばジャケットは、シングルブレストのテーラードジャケットをベースにしつつも、シルエットはすっきりと切りつめ、素材も軽やか。仕立てはまた過度に構築的にすることなく、ほとんどシャツのような佇まいを示している。また、シャツやニットはタイトなシルエットと短めの丈感にまとめ、スラックスはすっとストレートなラインを描くなど、シルエットを極度に切りつめ、研ぎ澄まされたラインを引き出した。
このように研ぎ澄まされた衣服の造形にあって、それを身にまとう人とのつながり、有機性が強調されている。たとえば、ジャケットには時にシワ加工を施すことで、着用されるものだという身体性が仄めかされる。あるいは、シャツなどには襟や裾にワイヤーを忍ばせ、有機的な動きを示すよう仕上げている。
したがってビュフェが、抽象絵画が主流の時代にあって具象絵画に留まったということは、装うことに対してある種の示唆を与えてくれるように思う。実際に衣服とは、人が身にまとうものである以上、身体というどこまでも具体的な形から自律することはありえない。たとえどれほどボリュームやディテールを削ぎ落としてゆこうとも、衣服という具体性に留まらざるをえない──ビュフェのごとく鋭い線でもって衣服の造形を探求した今季のプラダは、だから、ミニマルを志向してもなお存在してやまない、衣服のエッセンスに肉薄しようとしているようにも思われる。