キディル(KIDILL)の2025年春夏コレクションが、2024年6月18日(火)、フランスのパリにて発表された。
ふわりと甘く広がるチュール、可愛らしさと哀愁を帯びたキャラクターのグラフィック、あるいはスポーティなトラックスーツ。キディルの基底に流れるのがパンクであるのならば、それはなおも、チェック柄のボンテージパンツやアグレッシヴなグラフィック使いなどにぱっと見て取ることができるものの、今季のコレクションには、どこか現代の東京、それもサブカル的な同時代性が跋扈しているように感じられる。
今季のキディルは、アメリカ・ロサンゼルスを拠点とするバンド「Ho99o9(ホラー)」との対話を礎に紡がれたものだという。ハードコアとヒップホップが衝突するHo99o9は、その推進力を、音楽ばかりでなくパフォーマンス、衣装、独自の佇まいを通して表現してきた。そして今季のコレクションでは、Ho99o9のスタイルを具体的にデザインへと取り入れたのだ。
その例は、ウェアからディテールにいたるまで幅広く見て取ることができる。たとえはHo99o9を象徴するウェディングドレスは、ふわりとAラインを描くチュールや、クラシカルな雰囲気を漂わせるレースのロングシャツに変奏されているといえるだろう。また、ノースリーブのデニム、大胆なグラフィック、装飾的なファスナーなど、Ho99o9のスタイルの要素を直接的に取り入れた。
ところで、キディルのデザイナー末安弘明は、Ho99o9に「東京らしさ」を感じたという。その具体的な例として挙げられているのが、原宿のストリートカルチャーである。東京のストリートカルチャーが、トップダウン的なスタイルに争い、むしろボトムアップ的に、ブリコラージュ的に自らのスタイルを紡ぎだしてゆくのだと理解するならば、そこにある種反抗的な身振りを見て取ってもいいかもしれない。
実際、今季のキディルでは、随所に東京のストリートカルチャーを映しだすかのような例を認めることができる。イラストレーター・田中かえのグラフィックをシャツやワンピースに表したり、おそらくはそのかわいさで人気を集めているのだろうウィリアム・モリスのテキスタイルデザインを忍ばせたり、あるいはアンブロ(umbro)とのコラボレーションによるトラックスーツを取り入れたり……。
原宿のストリートカルチャーのうち、末安がとりわけ言及するのが、ロリータファッションである。それは、バロック、ロココ、ヴィクトリアンといったヨーロッパの伝統的な装いを着想源とはしつつも、それらを「想像的に」解釈して、ある種のあどけなさへと昇華してゆく。ややもすれば装飾過多とも思えるその装いは、「もっとかわいく」という思いを叶えるものだということもできるのかもしれぬ。この、装うことへのブリコラージュ的な欲望が、今季のキディルに波打っているように思われる。